公益財団法人 庭野平和財団主催「葛巻スタディツァー」報告

日時:2013年7月4日~7月6日
訪問先:岩手県岩手郡葛巻町

7月4日から7月6日まで、「北緯40度ミルクとワインとクリーンエネルギーの町」として知られている、岩手県岩手郡葛巻町を訪問した。今回、財団の呼びかけに応じ、11名の関係者が参加した。

本ツァーの目的は、GNH(Gross National Happiness-国民総幸福)とその具体実践である“地元学”の中で特に“エネルギー”に焦点をあてて“まちづくり”を行っている葛巻町を訪問し、その取り組みを見聞させて頂き、エネルギー問題、環境問題についての見識を広げることである。

参加者は4日に東北新幹線のいわて沼宮内駅に集合し、チャーターバスにて「くずまき交流館プラトー」にて昼食後、葛巻町役場の担当者から町の概要とエネルギー政策についてレクチャーを受けた。葛巻は岩手県北部に位置し、盛岡市と北三陸の中間地点に位置し、町の中心を北緯40度ラインが通る。明治25年にホルスタイン種を導入して以来、酪農の町として120年の歴史がある。その他、基幹産業の林業を活かし、自生の山ぶどうを使ったワインづくり、カラマツ集成材を建築用材に供給している。1995年の「自然とともに豊かに生きる町」宣言、1999年の「葛巻町新エネルギービジョン」の策定等をきっかけに、風力発電、太陽光発電、バイオマス等のクリーンエネルギーを導入し、地域エネルギーを利活用した“エネルギー自給のまち”へと変貌している。

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担当者からのレクチャー後、“バイオガスシステム”と“もく・木ドーム”を見学、説明を受けた。その後、同町東部の袖山高原にある“エコ・ワールドくずまき風力発電所”を訪問見学した。同発電所には風力発電3基が稼働しており、年間に約200万キロワット時を発電している。
7月5日は「森のこだま館」を訪問。ワイン工場を見学し、特産品である“山ぶどうのワイン”の他、地元産物について知見を得た。また、地域エネルギーの利活用のひとつである、ペレット型暖房機について説明を受けた。その後、同町南部の上外川高原にある“グリーンパワーくずまき風力発電所”を訪問見学した。同発電所には風力発電12基が設置、年間5,400万キロワット時を発電している。

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午後はNPO法人「岩手子ども環境研究所」(森と風のがっこう)を訪問した。森と風のがっこうは2001年の設立以来、自然エネルギーを日常生活の場で実感できるプログラムや研修を提供している。参加者は理事長の吉成信夫氏から研修を受けた後、同施設を見学した。吉成氏の研修では、岩手県出身の宮沢賢治の環境共生の精神や、デンマークを旅行した際に、同国の国籍を持つ日本人ステファン・ケンジ・スズキ氏が運営する研修施設“風のがっこう”で「薪と食べ物があれば戦争は起きない」と教えられことに感銘し、その後、葛巻町の協力を得、廃校を利用した“森と風のがっこう”を設立したという経緯を学んだ。さらに生活しながら環境問題を考えることや身近な生活実践から得られる実感の積み重ねが大事であること等を学んだ。さらに“がっこう”が目指すものは「環境と福祉」であり、子どもに関わる人たちの研修センターとしての機能を果たしていきたいと将来像についても聞かせて頂き、さらにイギリスの自然エネルギーのテーマパークである、CAT(Center Alternative Technology)という団体を“お手本”としていることを教えて頂いた。研修の後、施設見学し、夕方、“森と風のがっこう”を後にした。

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夕方からは地域おこしの店、「森のそば屋」代表の高家章子氏から講演を頂いた。
高家氏は講演の中で、「森のそば屋」は葛巻町の江刈川地区に平成4年に開店、同地区の伝統的農産品である蕎麦と大正時代から同地区で使われていた「高家領・水車」を使用して石臼を回す「そば挽き」が特色であると紹介した。また、同地区は現在55戸、約200人の人々が生活を営む小さな集落で、他の地区と比べ比較的穏やかであるが過疎化は進行している、しかし、同地区で伝統的に受け継がれてきたそば栽培、水車小屋、そしてそば打ちの技術といった資源を活用し、同地区のお母さんたちに雇用と現金収入を得る機会を提供したことにより、お母さん方が明るく、楽しくそして幸せになっていると現状を述べた。
そば屋開店当初は慣れないこともあり混乱もあったが現在ではリピーターも出るほど盛況で、県内はもちろん県外からも来客があるとのこと。また売り上げは東日本大震災後一時落ち込んだものの、現在持ち直しているとのことであった、また、震災後は支援活動として暖かいそばを被災者の方々に提供したことも報告された。講演後は高家氏を交え夕食懇親会を開催し、同氏のこれまでのご苦労を聞かせてもらった。

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7月6日の午前中は今回アドバイザーとしてツァーに同行した「東アジア環境情報発伝所」代表の廣瀬稔也氏からの講演を頂いた。講演の中で同氏は東アジア地域の環境問題、エネルギー問題について具体的な数字やデータを使用し報告し、また、同氏自身の地域での取り組みについて報告があった。さらに参加者と質疑応答の形でやり取りがあり、身近な問題としての環境問題、エネルギー問題、そして地域の村づくり、まちづくりについて意見交換があった。最後に参加者各自から本ツァーについての所感を聞き取った。

12時前に宿舎を出発し、昼食は「森のそば屋」でとった。その際、高家章子氏の夫君で地域づくりネットワーク盛岡代表の高家卓範氏に面識を得、水車を見学させていた他、「水車の里交流館」も案内頂いた。
以上、予定のプログラムを終え、いわて沼宮内駅で解散した。

(文責:庭野平和財団事務局)