曹洞宗寺院の現状 相澤秀生氏 跡見学園女子大学兼任講師

私は 20 年近く宗勢総合調査に関わってきたなかで、過去の調査から見えてきたこととして、大きく 5 つの点に注目できると考えています。

曹洞宗寺院の現状(宗勢調査2015より)

まず 2000 年代に入り寺院の減少が本格的になってきたということが挙げられます。これは、宗勢総合調査、曹洞宗のものになりますが、1965 年の調査段階では1万 4 千 786カ寺が調査対象寺院として存在していました。それが 2015 年には 1 万 4533 ヶ寺となります。小売店が人口減少とともに大きく減っていることから考えれば、この減り方からは、まだお寺は安泰かという見方もできなくはないと考えられますが、2000 年代 ―奇しくも人口減少社会に突入したといわれるようなところ―から、お寺の減少というのは三桁くらいで推移してきているということです。

次に注目したい2点目は、寺檀関係の縮小化です。要するに、檀家数がかなり減ってきているのではないかということです。

寺壇関係の縮小化、法人収入の格差拡大

曹洞宗の場合、2005 年の調査までは単純集計の積み上げで檀家数が増えてきたと言われています。前回調査の 2015 年と 2005 年の調査を比較すると檀家数の分布には大きな変化はありませんでした。変化がないということは、檀家数がそんなに変わってないのではないかと言えるかもしれませんが、当然 2005 年から一世帯あたりの世帯員数というものが減少してきているわけです。それを踏まえると、実質的には寺檀関係が縮小化してきた時代に突入したのではないかということが考えられます。

少なくとも、これまでは檀家数が右肩上がりで増えてきたと言われていますから、成長のストップという点で 2015 年は一つの画期になっているということが言えます。こうした傾向はほかの教団でもみられるところです。

次に、法人収入の格差が拡大しているという点です。収入が 500 万以下の寺院というのが曹洞宗の場合は過半数を占めていますが、2015 年は 55%、それから高収入寺院は、 2015 年は 2 割弱。高収入寺院が増えて、低収入が若干減ってはいますが、その格差が拡大し、二極化が進んでいるようです。

また寺院の減少と連動することですが、兼務寺院が増加しました。1人の住職が複数寺院の代表役員を兼ねている兼務寺院が、前回の調査から増え、22%ぐらいになります。兼務寺院が増加するということは取りも直さず住職数が減ったということを意味し、その背景にあるものは寺院後継者の不在です。

兼務寺院の増加、徒弟の大幅な減少

そして、この問題というは、寺院の収入が影響している部分が大きく、収入が低いほど寺院を継がせたくないというような人たちが増えるというような傾向が見えています。

5 点目は徒弟の大幅な減少です。徒弟は未来の住職候補といえる存在ですが、1975 年の調査開始時点の 8,405 人から、2015 年には半数を割り込む 3,295 人となりました。

住職の家族と呼ばれる人を「寺族」と研究者の間では呼んでいますが、それもかなり大幅に減っています。この背景には、先ほど冒頭に石井先生から話題にあがりましたが、未婚化の問題です。曹洞宗では実態として親から子へ寺院が引き継がれるケースがほとんどです。近年は未婚の住職が増加しています。それに伴って住職の実子が少し、寺族(や徒弟)の減少と連動してくる形です。

兼務寺院の増加、徒弟の大幅な減少

この 5 点に注目し、30 年頃までに予測されることの結論を端的に申し上げると、寺院の減少がさらに加速するということが言えると思います。宗務行政のサイドでも、不活動寺院の合併による寺院の活性化を政策の要諦としている背景があります。

これに加えて、コロナ禍が葬祭費用の低廉化や、寺院離れを加速させているという現状があり、葬祭を紐帯とした既存の寺檀関係を脱却した新たな関係を創出する取り組みが模索されてはいるのですが、これは極少数に限られている現状があります。兼職をして寺院を維持する住職も減少していますので、上記の檀信徒の減少、収入格差の拡大、兼務寺院の増加、徒弟や寺族の減少に歯止めがかからないという状況では、寺院の存続が困難です。

先行研究によると、寺院の解散合併は甲信越、北陸、東海、近畿、中国、四国で進んでいます。主たる理由として挙げられているのが、寺院建築物の維持困難で冒頭の神社界の話題とつながる問題です。

曹洞宗寺院の立地環境 過疎地寺院の教団間比較

こういった結果と合わせまして、2015 年調査の寺院の法人収入や檀信徒数などに基づき、将来を見通してみると、今後も甲信越、東海、中国、四国では解散や合併が相次ぐと見られます。

今後予測される事態

なお甲信越、東海、中国、四国というのは、他宗派も含めた寺院の数が多い点が特徴として挙げられます。

いっぽう近畿や北陸は寺院の再編が進んでいる地域ではありますが、法人収入や檀信徒の減少が他の地域に比べて穏やかなため、そのペースは鈍化し、これに代わって北海道や東北で解散・合併の寺院の事例が多くなっていくのではないかと考えています。

今後予測される事態

曹洞宗寺院の場合は、500 万円未満の低収入寺院が過半数を占めており、寺院の解散合併は特に収入が少ない寺院、そして収入が少ないがゆえに建築物を維持できないというところがかなり多いため、2015 年を起点として、今後、2030 年までに最大2千ヶ寺が解散や合併していく可能性があるのではないかと思います。あくまで予測にすぎませんが、これまでの解散や合併のペースから換算すると、その 2 倍程度で事態が進むことになります。

簡単ではありますけれども、以上です。

曹洞宗の宗勢調査からみえてきたこと(1965年調査~2015年調査)