中條暁仁・静岡大学教育学部准教授

過疎地域の寺院にみる住職後継者の去就

中條でございます。よろしくお願いいたします。私は本日、「過疎地域の寺院にみる住職後継者の去就」ということで、皆様に発表させていただきます。ただいま日蓮宗現代宗教研究所の研究員もいたしております。今日は、宗門での調査も踏まえながら、皆様にこのテーマでお話してまいりたいと存じます。

本報告の内容

特に今回、過疎地域の寺院に注目していくわけなんですけれども、人口減少社会、あるいは高齢社会における寺院のあり方を考える手がかりになるということで、過疎地域寺院に焦点を当てています。特に人口減少地域、過疎地域、中山間地域とも言われていますが、今後も檀家数が減少していき、住職の代務化と寺族の無居住化が進み、やがて廃寺化することの懸念が増幅しております。また今回のテーマですが、住職の後継者が確保されていない状況にあると。先ほど、丹羽先生からも石井先生のご研究の一端をご紹介いただきましたけれども、それとよく似た状況がお寺でも生じているということで、住職の後継者問題が最も先鋭化された寺院として「過疎地域寺院」を対象としたということになります。

過疎地域寺院に注目する意義

過疎地域寺院に関する行政上の関心ということもここで触れておきます。文化庁による「青空寺院(不活動法人)」の抑止に向けた通達」というものがございまして、これが各宗派に対して具体的な対応を求めています。2025年問題という団塊の世代が高齢後期に入っていく時期になるわけですが、寺院の人口減少社会への対応のあり方というものが問われています。特に、住職の後継者の動向であるとか、あるいは檀家減少の時代に入っているので、それらの後継者の動向のあり方といったものに関心が注がれております。

過疎地域マップ

今回、過疎地域を取り上げていきますが、過疎地域はどんな地域にあるのかということだけ、簡単に皆様にこの地図をご覧いただきたいと存じます。全国人口比を見ますと、10%に満たず、高齢化率は36.7%ということで、今はもっと上がっていると思います。ただ、全国比1割にも満たない人口の人たちが、国土面積の6割を占める地域に住んでいるということで、非常に国土管理の側面からも、過疎地域問題というのは非常に重要なテーマになっているということが分かります。

過疎地寺院調査報告 ここまで来ている過疎地寺院 あなたは知っていますか?

私が所属しているのは日蓮宗なんですが、日蓮宗は伝統仏教教団ではいち早く過疎地域寺院の調査に着手しているということで、ここにお示ししている冊子、『過疎地寺院調査報告 ここまで来ている過疎地寺院 あなたは知っていますか?』これは1989年なんですけども、もうバブル期にいち早く調査に着手した経緯がございます。

日蓮宗における教師数の推移

今回は日蓮宗を事例にお話ししていくわけなんですが、僧侶資格を持っている人たちの人数を見ていきますと、2013年頃をピークにしまして、もう右肩下がりに入っているという現状がございまして、教師の高齢化率を算出しましたところ、38.4%に達しています。これは、全国の過疎地域の平均高齢化率に該当しているということで、こうした伝統仏教教団の一教団ではありますけれども、かなり高齢化が進んでいます。

日蓮宗の代務住職寺院の分布

ここでお示ししている地図は、代務住職寺院の分布です。代務住職というのは何かと言いますと、専任の住職がいらっしゃらないお寺の数を表しております。各都道府県別に地図で表現しておりますけれども、特に過疎的な地域において、専任住職がいらっしゃらない寺院が分布しています。

日蓮宗における過疎地域寺院調査

今日皆様にご報告させていただく調査のデータですけれども、こちらがコロナ禍前に私たちが調査した内容をご報告いたします。特に石川県の能登地域につきましては、昨年の能登半島地震という大きな地震がございましたけれども、地震以前に調査した内容でございまして、今振り返ってみるとかなり貴重なデータだったかなと考えております。

調査結果

どんなような調査だったかと申しますと、広島の備北、山梨県の早川、石川の能登という三地域でお寺の調査、住職から本務寺院や代務寺院についてお寺の寺院活動であるとか、あるいは経済の状態、あるいは檀信徒の状況について聞き取っております。それから檀家調査ということで、特に、広島と山梨での調査は、檀信徒の家族のこと、それからお寺との関わりについて聞き取りを行いました。

「少子型」過疎と「高齢者減少型」過疎

若干宗教から離れますけれども、現代の過疎地域はどのような所なのか。今回のシンポジウムの趣旨の中にも過疎であるとか、あるいは限界集落というキーワードが入っておりますので、若干ご説明をいたします。現代の過疎地域においては、少子型の過疎と高齢者減少型の過疎というものがあります。少子型の過疎についてはもう子どもが減っていき、高齢者も増えていく。これはかつての過疎地域において、もう全国あらゆるところで見られた現象です。現在でもこちらのパターンが多いんですけれども。ところが、過疎が行きつく先はどうなっているのかというパターンも見受けられまして、これを高齢者減少型の過疎と言ったりしています。どういうことかというと、子どもの数も減っていきますが、これまで増え続けてきた高齢者も減少しています。これが高齢者減少型過疎ということで、おそらく過疎の行き着く先というのはこのようなパターンになっていくだと推測されます。

調査地域の位置づけ

今回、私たちなんですけれども、三つの地域で調査を行いました。このように過疎が比較的緩やかな、お寺に対して緩やかな作用を及ぼしている地域から、過疎がお寺に対して強い作用を及ぼしている地域まで取り上げたということになります。地震以前の能登地域ですけれども、こちらはこれから作用してくるであろうという、そういう位置づけになっています。それから広島の備北ですが、中国山地です。それから、山梨の早川が最も過疎が先鋭化してお寺に大きな影響を及ぼしているであろうと推測される地域です。

過疎地域における寺院問題の整理

こちらの図ですが、私が仮説的に提起しているものですが、第Ⅰ段階というのは檀家さんが実質的に減少していく時期です。おじいちゃん、おばあちゃんたちは農山村に残留し、その子どもたちは都会へ転出してしまう。家族は空間的に分散してしまうという、実質的な減少を、檀家の実質的減少と言っています。それからさらにそれが進んでいくと、第Ⅱ段階として住職の無居住化が生じます。今回は、この第Ⅱ段階の寺院を対象としています。さらにそれが進んでいくと第Ⅲ段階ということで、住職や寺族すら全くいなくなってしまう。今まで代務住職で何とかつないでいる第Ⅱ段階だけれども、それを担ってくださる代務住職すらいなくなってしまって、やがて第Ⅳ四段階で廃寺化、お寺そのものがなくなっていくという。そのような流れになっています。

後継者についてみた寺族構成の差異

過疎がこれからお寺に作用していくであろうというふうに考えられる能登半島。地震以前の能登地域の状況をご説明いたします。地震のニュースでたびたびご覧になっている地図ですけれども、一番北側の地域を奥能登。ブルーで表記しているのは中能登。そして金沢に近い地域を口能登と言っています。これは黄色で表しています。これ見てみますと、人口減少の著しい奥能登ほど後継者がいない、あるいは無居住になっている。そういった寺院が目立っています。多くの寺院では住職夫妻で運営している寺院が目立っています。そういった傾向を見て取ることができます。

縮退する管区(2019年石川二部調査)

それから縮退する管区ということで、能登半島で一つの管区を形づくる日蓮宗寺院の寺族の人口ピラミッドを見ていただきます。塗りつぶしで表されているのが、能登地域に暮らしている寺族の方の人口を表しています。白抜きになっているのが、ご住職の子どもさんであるとか、あるいはお孫さんであるとか、 そういった方々の人口を表しています。現地に住んでいる住職や僧侶資格を持っている方が29人、寺庭婦人が36人いらっしゃいます。 合計65名で構成されています。本来はもっと人口が多かったのですが、若い寺族が外に出ておられるという実態がございます。これを縮退する管区というふうに私は呼んでいます。

年中行事の実施比率

そうした高齢の住職、寺族で担われている寺院の活動なんですが、寺族が減少しながらも、年中行事がこのように維持されているということがお分かりになろうかと思います。

年中行事の平均参詣者数と平均年齢

それから年中行事の平均参詣者数と平均年齢ですが、これは折れ線グラフが参詣者の平均年齢を表しています。棒グラフは平均人数なんですけども、正月や盆を中心に能登半島の域外の転出者も寺院に集まっています。特に、新年のご祈祷で多くの参拝者が得られています。星祭りという節分の行事にも集まってきている。折れ線グラフを見ていくと、平均年齢がかなり下がっています。要するに、お正月にみんな帰省してくるので、そこでお寺の行事に参加しているといったような、そういった実態を読み取ることができます。まだまだお寺には、多くの参詣者が集まっているという実態がわかりました。

地域別にみた年中行事への檀信徒の出席状況

こちらの表ですけれども、回答寺院の合計行事件数を見てみますと、各お寺でだいたい年間10件以上ですね。15件近くの行事をこなしておられます。寺族が減っているけれども、多くの参詣者、出席者数が得られているという実態がわかります。

住職後継者が得られなくなった経緯

そして、住職後継者が得られなくなった経緯を別の地域の調査から明らかにしてまいります。

早川町の集落景観

空き家

中にはですね、このように空き家だけになっている集落が町内に点在しております。

寺院周辺

寺院内部

このように中に、お寺の本堂の中に入ってみますとですね、老朽化によって雨漏りがひどく、これは5件のお檀家のいらっしゃるお寺なんですが、本当に少数の檀家の寺院ではなかなか修復費用が賄えませんので、このように雨漏りだらけになっているという、損傷のひどいお寺もございます。

早川町 限界集落 寺院の無居住化

こちらの図は、過疎によって寺院が無居住化している現状を表しております。かなり多くの地域で限界集落化し、寺院が無居住化している実態がわかります。

お寺

三次藩有縁寺院

お寺

倒壊する庫裏

倒壊する庫裏

こちらも住職が住まなくなって長期間経ち、庫裏が倒壊してしまっている寺院の写真です。

本務寺院と代務寺院

こうしたお寺ですけれども、本務寺院からですね、正規の住職が無居住寺院に代務住職として派遣されて、かなり広範囲に動いている実態がわかります。

無居住寺院の実態

無居住寺院の実態ですが、多くの寺院では檀家軒数が100軒以下のお寺が多くあります。近隣の檀家の方々、総代さんが管理していたり、あるいは代務住職が管理をしています。広島の方は、2000年代に入ってから代務化が進んでいた、代務住職化が進んでいった。早川町の方では、1970年代ということで、もう50年ぐらい経つような、かなり以前から代務住職化が進んでいるということになります。

寺族の世帯構成の差異

お寺の外へ出てった寺族の人たちはどうなってるんだろうかってことなんですが、全てのお寺ですね、住職の子どもさんはいるんだけれども、皆さん、地域の外に出て行ってしまっています。特に、企業とか、公務員とか、あるいは学生となって地域の外へ出てしまって、一応お寺にはお父さんもお母さんもいらっしゃるので、月に1回程度帰省されていたりとか、月に1回程度帰っている実態がございました。住職の奥さんたちも、お寺だけではなかなか生活がままならないということで、やはり兼職をされてらっしゃる。常勤の雇用であるとか、あるいはパートタイマーとして、外でお勤めをされてらっしゃるという方々がいらっしゃいました。

前住寺族のゆくえ:広島E寺の事例

現在は無居住になっているんだけれども、その前のご住職の家族がどこへ行かれているのか、その実態を見ておきます。住職はいらっしゃらないんだけれども、その子どもさんはいらっしゃる。でも、その子どもさんたちはお寺に住まずにお寺から退去している。こちらですけども、先ほど宝物庫を持ってらっしゃる、そういうお寺でかなり立派だということを申し上げましたけれども、そちらで観察できた元寺族の様子です。こちらの左下の写真で白丸で囲っているんですけども、こちらが前住職の息子さんになります。今50代でいらっしゃいますけども、中学校の数学の先生をされていて、校長先生をお勤めだそうです。日蓮宗で得度はしてるんだけれども、教師資格を持ってらっしゃらない。すなわち、中学校の教員として就職をしてしまっているので、大学卒業以降、総本山の身延山に入って修行をして、そして教師資格を得るということをしなかったということになります。隣町に自宅を購入していて、お母様とともにこのお寺を退去しました。前のご住職とその奥様はすでに亡くなっていて、そのお墓が自分の元実家であるお寺にあるので、そちらの檀家になっています。年中行事は勤務の都合がつけば、自分の妻と一緒に参列するようにしていようです。代務住職が法要の導師を務め、自分はお経を読み、お題目の太鼓をたたいていました。ただ、そのお孫さんたちは来ておらず、檀家が継承されるかどうかはわからない実態がございました。

前住寺族のゆくえ

さらにその他の事例ですけれども、広島県の備北地域を見ておきます。こちらは代務住職就任の経緯ということなんですけども、前住職の生前に依頼を受けたりとか、あるいは前住職の親族、親戚のお寺の住職が代務住職を担ったりとかでなんとか繋いでいました。住職に後継者がいても、教師資格を取得していない。なかなか寺族の方々も、皆さん大卒の方が多いもんですから、 教員であるとか、あるいは弁護士さんとか会社員とかそういった職についてらっしゃる方が結構いらっしゃる。ですので、住職よりかも経済的にも安定している、お寺以外の職に就いていたということになります。そして女性の子どもさんたちは、結婚によって転出している。つまり、お寺以外の職に就いてらっしゃるお婿さんが大勢いらっしゃいました。中にはお寺に嫁がれていて、嫁ぎ先のお寺のご住職が代務住職を務めたりということがあるんですけども、それはレアケースになります。山梨県の早川町は50年ほど前から代務住職化が進んでいるということを申しましたけれども、そもそも50年前に寺族がいなくなっている、30年前に寺族がいなくなっていますので、前住寺族はいないということで追跡ができませんでした。もう情報がなかったということです。代務住職で固定化してしまっています。しかし、代務住職でお寺がつながってはいますが、代務住職の後継者もいなくなっているのでかなり不安定な状況にあります。

過疎地域寺院の実態からわかること(1)

まず、過疎地域寺院にある最も大きな問題は後継者です。無居住になる以前のそのお寺ですけども、前住職や、現住職に男子、男の子どもさんがいらっしゃっても、後継者とならない人が目立つようになっています。すなわち、お寺以外の職に就いてらっしゃる方がとても多いです。学生の時から住職継承の意志がない。そもそも意志がなかったということです。これは、自分の父親である現在の住職の子弟教育のあり方を考える必要があるんだろうと思われます。すなわち今回のテーマである住職後継者の宗教性、そこがやっぱり問題になってくるんだろうと。 あるいは、住職にはなるんだけれども、安定的に住職に専念できる環境が整えられているかどうかということも大きな問題だろうと思います。そして、寺族の他就業化という変化も大きいです。なんとかお寺を維持していくために、ご住職も含めて、寺庭婦人も含めてですけれども、檀家数数が減っておりますので、法務以外、お寺の寺院活動以外の就業の必要性というのが生まれています。その結果として何が起こるかといいますと、檀家の寺離れならぬ寺族の寺離れという問題も生じてしまいます。 また、無居住寺院の代務住職の継承が後継者難によってもうまく進んでいない実態もあります。すなわち、代務住職になっていらっしゃる方々も、過疎地域のお寺のご住職になっているので、その自分のお寺の後継問題も抱えているので、代務住職になってくださる方がいらっしゃらないという問題が出てきています。ですから、もともと無居住になっているので、そういったお寺の代務住職が得られなくなる、確保できないという状況になりますと、そのお寺も青空寺院、荒廃するという懸念が生じるということになります。

過疎地域寺院の実態からわかること(2)

さらに少人数の教師であっても、過疎地域に広範に分布する寺院を支えやすいシステムにしていくことも必要です。広範に寺院が分布している地域において、少人数の僧侶でなんとか支えられるようなシステムを考えていく必要があります。 また、なんとか後継者を確保しやすい環境を整えていく必要もあります。現代の寺院を考えるとき、やはり世襲による住職の継承が一般化しております。自分の子どもを、特に男性の子どもさん、場合によっては女性の子どもさんもあるかもしれませんが、後継者のつなぎとめのためには、生活の安定が必要です。俗な話になってしまいますけれども、そういった側面というのが特に作用しているのではないか。 つまり、宗教の涵養性以前に、こういった環境をやはり培って、 確保しておくということも必要になってくるのではないかということで、私の報告を終わらせていただきます。

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