庭野平和賞30周年記念シンポジウム

 『未来社会のための新しいパラダイム』をテーマに、庭野平和財団による「庭野平和賞30回記念シンポジウム」が10月23,24日の両日、東京・千代田区の日本外国特派員協会で開催された。国内外の宗教者ら延べ約230人が参加。

 庭野平和賞は1983年、宗教的精神に基づいて宗教協力を推進し、世界平和の実現に顕著な功績を残した個人・団体を表彰し、その業績が多くの人々を啓発することを祈り創設された。2003年には「庭野平和賞委員会」を設置。現在、世界125カ国、約800人の学識者、宗教者などの推薦をもとに同委員会が厳正な審査、決定を行っている。

 今年30回の節目を迎えたことを記念して開催された同シンポジウムでは、福祉と自然環境のバランスが高水準で保たれた未来社会の構築に向けたアイデアや活動を探究し、目指すべき将来を可視化することが目的とされた。

 開会のあいさつに立った庭野名誉会長は、同賞のこれまでの歩みを紹介し、「受賞者は勇気を持って現状を変革し、宗教的な精神と行動を各地に根づかせた」と敬意を表した。また、シンポジウムのテーマに触れ、利益や合理性を中心とした価値観から幸福感に価値を見出す社会への転換に期待を込めた。

 次いで、ブータン国中央政府情報通信省のダショー・キンレイ・ドルジ次官が、『GNH(国民総幸福量)に喚起された開発のパラダイム』と題して基調講演した。ドルジ次官は冒頭、GNHはブータンの4代目国王により提唱され、GNP(国民総生産)やGDP(国内総生産)といった経済発展の指標ではなく、幸福度によって豊かさを示そうとする概念と説明。幸福とは物質の豊かさといった一時的なものではなく、人間の内面に永続的に存在する人類の英知に根ざしたものと見解を示した。

 また、ブータンの現状を紹介し、「国民が幸福に暮らす環境を整えるのが国の責任」と強調。人間は自然に依存しており、環境や文化を保存し、持続可能な社会を形成することが幸福感を得るためには重要とした上で、「それぞれの社会文化に応じて適切に幸福の価値観を転換していくことが大切」と語った。

 次いで早稲田大学の西川潤名誉教授が登壇。ドルジ次官の基調講演に触れながら、人間は仏性を持つ一方、貪欲を有すると指摘した上で、幸福を得るためには、それぞれが自然に生かされている存在であるという自覚が大切と語った。

 このあと、関西大学の草郷孝好教授がコーディネーターを務め、『社会のガイドラインとしてのGNH』をテーマに龍谷大学の西川芳昭教授、環境ジャーナリストの枝廣淳子氏、ドルジ次官によるパネルディスカッションⅠが行われた。この中で、従来の経済発展が限界を迎えつつある日本社会で、GNHを指標にして地域に内在する特色を再発見する大切さが語られた。

 翌24日は、『日本の農村から未来を創造する』と題して、立教大学大学院の内山節教授が基調講演。経済や文化、信仰など社会を構成するさまざまな要素は本来、相互に関係し合っているにもかかわらず、現代社会では分離され、バランスを崩していると指摘した。

 その上で、自身が暮らす群馬・上野村では、人や自然とのつながりを求めて都市部からの移住者が増加傾向にあると現状の事例を紹介。農村社会には現代社会で失われた「共に生きる社会や支え合う経済が存在している」と述べた。

 さらに、伝統回帰の重要性にも言及。科学技術の役割を認めながら、それを用いて現代社会に適した形で伝統的なコミュニティを再構築する大切さを語った。

 このあと、『未来社会を目指した実践』をテーマに、元水俣市長の吉井正澄氏、荒川区総務企画部の北川嘉昭部長、「陸前高田みんなの家」の菅原みき子代表、内山教授によるパネルディスカッションⅡを実施。草郷教授がコーディネーターを務め、水俣市が推進する地元学を用いた「村丸ごと生活博物館」、荒川区が行うGAH(荒川区民総幸福度)などの取り組みが説明された。

 続いて、ノルウェー国教会オスロ名誉監督のグナール・スタルセット師(第30回庭野平和賞受賞者)がコーディネーターを務め、SEWA(自営女性労働者協会)アカデミーのナムタラ・バリ理事長(インド、第27回受賞者でSEWA創始者のエラ・ラメシュ・バット氏の代理)、「サルボダヤ・シュラマダナ運動」のビニヤ・アリヤラトネ事務総長(スリランカ、第9回受賞者で同運動創始者のアハンガマジー・チューダー・アリヤラトネ博士の代理)、庭野平和賞委員会のサリウ・マッケ委員(セネガル)によるパネルディスカッションⅢが行われた。『宗教の視点から』をテーマに、各団体が行う活動が紹介された。

 閉会式では、韓神大学の李起豪教授が登壇。「関係性の喪失」という現代の課題を提示した上で、同シンポジウムで示されたポイント、課題として「人間を中心に据えて考える」「民主主義の根幹である〝共感〟」「分裂と格差」と指摘し、自然や他者に生かされている認識の必要性を強調した。その上で、科学技術の進歩に伴い「フェイス・トゥ・フェイスの関係がより大切になる」と語った。

 さらに、特定非営利活動法人「JIPPO」専務理事で龍谷大学の中村尚司名誉教授、第28回受賞者でINEB(仏教者国際連帯会議)の共同創設者であるスラック・シワラック氏(タイ)が、2日間の討議の成果や感想などを述べた。

 閉会のあいさつに立った庭野理事長は、「今回の学びを理論のみに終わらせるのではなく、生活の中で生かしていきたい」と語った。