報告「新型感染症が与える影響と市民社会 連続セミナー」第1回

新型コロナウイルスの感染拡大が、困難・課題を抱えた人々と、その支援者に与えた影響と今後①

 

当財団主催「新型感染症が与える影響と市民社会 連続セミナー」の第1回「新型コロナウイルスの感染拡大が、困難・課題を抱えた人々と、その支援者に与えた影響と今後」は、6月22日、オンラインにて開催されました。安定した住まいを失っている人々の住宅支援事業に取り組む稲葉 剛氏((一社)つくろい東京ファンド代表理事)と、子どもと家族の貧困対策に取り組む小河 光治氏((公財)あすのば代表理事)を迎え、川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表者)の進行で、お話を伺いました。

ハイライトでご報告します。

 

稲葉 剛氏 (一般社団法人 つくろい東京ファンド 代表理事)のお話

https://tsukuroi.tokyo/

つくろい東京ファンドは、安定した住まいを失っている人々(ハウジングプア)の支援に力を入れてきました。新型感染症の流行で、これらの人々は、普段以上に困窮しています。路上生活者は土木関係の仕事が激減し、炊き出しの支援も減少しました。また、ネットカフェ等で寝泊まりする方々は、仕事が激減し、さらにネットカフェへの休業要請によって行き場さえも失いました。
 


安定した住まいを喪失している人々「ハウジングプア」

 

私たちは4月3日、ビジネスホテルの借上げ等の緊急支援を求める要望書を東京都に提出しました。また、都がホテルの提供を始める前日の7日から、メール相談を開始しました。以降1か月半の間に受けた約180件のメールは、悲鳴のようなSOSばかりです。

 

つくろいでは、少人数でのアウトリーチ支援も行っています。自宅に待機するメンバーがメールを受け付けて、相談者に待ち合わせ場所を設定。近くのスタッフが駆けつけて緊急の宿泊費を提供し、公的支援につなげていきました。宿泊費として活用したのは「東京アンブレラ基金」です。これは、10代の若者、LGBT当事者や難民など異なる属性の人々を支援する14団体が共同で2019年に立ち上げた基金で、住まいのない方への支援費としてクラウドファンディングで寄付を募ってきました。


「今夜、居場所のない人」のための基金 東京アンブレラ基金

 

さらに、個室シェルターの増設にも努めています。アパートの空き部屋を借り上げ、25室(今年2月末)から44室(6月18日時点)に拡充。また、緊急宿泊支援の拡充等の行政に対する要請も、他の団体と協力しながら続けています。

 

今回顕在化したのは、従来からあった行政対応の問題点に他なりません。引き続き「ハウジングファースト」を第一に、安心して暮らせる環境を提供していきます。


従来型の支援から、ハウジングファーストへ

 

 

小河 光治氏 (公益財団法人 あすのば 代表理事)のお話

https://www.usnova.org/

あすのばは、子どもの貧困がなくなる社会を作るため、①調査・研究に基づいた政策提言、②こども食堂など支援団体への中間支援、③子どもたちへの物心両面での直接支援を3つの柱に掲げ、活動してきました。新型感染症が流行するにつれ、子ども、保護者、助成先担当者から切実な声がたくさん寄せられるようになっています。
 


子どもの貧困対策センター「あすのば」の事業内容

 

 


子どもや保護者からの生の声

 

こうした声を受けた政策提言では、18歳以下のお子さんのいるひとり親世帯および住民税非課税のふたり親世帯に対する現金給付の要請に、特に力を入れました。他に、休校中の子どもの食や居場所の保証、オンライン授業を受けるための環境整備、若年非正規労働者の訓練給付金拡充などを国に対して訴えています。また、子どもへの直接支援に限らず、子どもを支える団体への支援も重要です。休眠預金等活用審議会の専門委員として、休眠預金を活用できるよう提言しています。

 

現在までに、低所得のひとり親世帯への臨時給付や、中学生以下への児童手当の追加、困窮する大学生への支援、そして子ども若者支援団体には休眠預金による助成も決まりました。しかし高校生への支援がなく、中学生以下への支援金額も十分ではありません。また、住民税非課税のふたり親世帯への現金給付は実現していません。

 

緊急事態宣言が解除されても、困窮世帯の生活が安定するまでには時間がかかるため、今後も漏れのない現金給付が必要です。また、失業者や非正規雇用で減収した人々への十分な雇用対策と収入保障も続けていかなければなりません。「社会的距離」という言葉が、困難な状況にある方をますます孤立させることを危惧しています。過去の震災では、生活基盤が弱い人が復興から取り残されました。同じ過ちを犯さず、今回の経験を、分かち合いを大切にする社会への転換点にしなければならないと考えています。

 

 


実現した国への政策提言

 

 

質疑応答

 

川北:

支援する側も収入の減少などの影響を受けている今回、次の一手をどう考えていますか?

 

稲葉:

まずは、個室シェルターの増設です。不動産会社がオーナーを説得してくださり、少しずつ物件を増やしています。また、本人名義のアパートに移る際のサポートも課題です。電話番号がないためにアパートや仕事を探せない人もいるため、電話番号がついた通話機能つきアプリの開発を進めています。

 

小河:

私たちがすべての子どもを直接支援することはできないので、行政の支援をいきわたせることが重要です。児童手当への上乗せの形で対象の世帯に給付金が入るような仕組みを、引き続き政策提言に入れていきます。

 

川北:

全国的に見ると、全世帯の8軒に1軒は空き家です。困窮者の住まいとして活用できませんか?

 

稲葉:

これまで賃貸住宅の空き室をシェルターに転用してきました。戸建ての住宅を困窮者支援に使う場合は、個室にカギを付けるなどリフォーム費用がかかるため、あまり活用できておらず今後の課題です。

 

川北:

行事の中止が相次ぎ、子どもたちの経験の場が失われたことをどう考えればよいでしょうか?

 

小河:

オンラインでは限界があります。そもそも、困難を抱えた子どもたちはリアルなつながりこそ大事です。大人たちが3密を避ける工夫をしながら、経験の場を作ることが大切だと考えます。

 

総括として稲葉氏は、「コロナ災害は自然災害より目に見えにくいが、確実に暮らしを直撃している。より多くの方に支援にご協力いただきたい」と語られました。小河氏は「コロナ収束後に、つらい人だけが取り残されるということがないよう、社会に声を伝えていくことが大事。高校生向け給付金事業への寄付をご検討いただきたい」と述べられました。

(以上)

 

本第1 回のセミナーは、『佼成新聞デジタル』(佼成出版社)でも取り上げられています。
https://shimbun.kosei-shuppan.co.jp/news/41405/