報告「新型感染症が与える影響と市民社会 連続セミナー」第2回

新型コロナウイルスの感染拡大への助成機関の対応のこれまでとこれから

当財団主催「新型感染症が与える影響と市民社会 連続セミナー」の第2回「新型コロナウイルスの感染拡大への助成機関の対応のこれまでとこれから」は、7月15日、オンラインで開催されました。阿部 陽一郎氏((社福)中央共同募金会理事・事務局長)と、石原 達也氏((一社)全国コミュニティ財団協会常務理事・事務局長)を迎え、川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表者)の進行でお話を伺いました。
ハイライトでご報告します。
 

阿部 陽一郎氏(社会福祉法人中央共同募金会 理事・事務局長)のお話
https://www.akaihane.or.jp/

中央共同募金会は、市民社会の「たすけあい」運動として1947年に始まった、全国47都道府県共同募金会の連合体です。約7割が市区町村の福祉活動に使われ、3割は県内の広域的な福祉活動支援や災害時の被災者支援のための積み立てなどに活用されます。社会福祉法人やNPOなどへの年間助成総額は約151億円、約5万件(2018年度)で、サロン運営から福祉施設の改修まで、様々な場面で利用されています。

新型コロナウイルス感染症対策としては、臨時休校措置の発表後、3月4日から「臨時休校中の子どもと家族を支えよう 緊急支援助成事業」を開始しました。法人から2,000万円を用意し、同時に寄付募集を呼びかけ始めました。どれだけのご寄付があるか不安もあり、法人としては苦しいですが、緊急支援が必要と考えました。子ども食堂や学習支援などを続ける民間非営利団体を対象として、申請前にさかのぼった応募も受け付け、これまでに555件に4,467万円の助成が決定しています。


赤い羽根 新型コロナ感染下の福祉活動応援全国キャンペーン

この助成を通じて、食材の配布や弁当の配達など「食」にまつわる支援ニーズが高いことや、居場所を失った方々からの相談が急増していること、孤立しがちな方々のつながりづくりが課題であることがわかり、5月からは「新型コロナ感染下の福祉活動応援全国キャンペーン」を展開しています。この中で、各地域の状況に合わせて助成できるよう各都道府県の共同募金会による「子どもと家族の緊急支援助成」も実施しています。


全国キャンペーンには、子どもと家族の緊急支援助成、フードバンク活動応援助成、居場所を失った人への緊急活動応援助成が設けられている

7月には、withコロナの社会におけるつながりづくりやささえあいなど、草の根の福祉活動を活性化するための支援として、「withコロナ草の根応援助成」を上記のキャンペーンに加えました。また、7月14日からは、(公財)三菱財団からのお申し出をいただき、その資金を原資にした協働の助成活動「外国にルーツがある人々への支援活動 応援助成」を開始しています。


1万円でサポートいただけること。子ども食堂の子どもたちの食材30食分、フードバンクの配送用ガソリン代83リットルなど

 

石原 達也氏(一般社団法人全国コミュニティ財団協会 常務理事・事務局長)のお話
https://www.cf-japan.org/

全国コミュニティ財団協会は、全国30のコミュニティ財団が参加する、「地域性」と「市民性」を大切にした組織です。


全国コミュニティ財団協会には、全国の30組織が参加している

新型感染症は、各地域の経済、社会、医療など多方面にマイナスの影響を及ぼしています。運営が難しくなったNPOも少なくなく、それらの団体が支援してきた困難を抱える方々にも影響が起きているのです。

すでに東京発の基金や政府・地方自治体からのトップダウン的支援が増えていますが、地域の人々にしか解決できない地域課題もあります。そこで立ち上げたのが、地域からのボトムアップ型の基金「47(よんなな)コロナ基金」です。(公財)地域創造基金さなぶりが寄付を受け付け、協働団体である各地のコミュニティ財団や地域づくりセンターなどを通じて、地域のニーズに合わせて活動する福祉施設やNPOを支援しています。


47コロナ基金の全体像。地域創造基金さなぶりで寄付を受け付け、各地の協働団体に助成

この仕組みを応用し、7月の豪雨で甚大な被害を受けた熊本県では、コミュニティ財団の一つである(一財)くまもとSDGs推進財団が、発災当日に「熊本災害基金」を立ち上げました。これまでに500万円以上の寄付を集めています。全国ネットワークのつながりや事前の協議によって、スピード感を持った資金調達と助成が実現しつつあります。
 
コロナ禍では、SNSを通じた交流が進んだり、地域のつながりの大切さが見直されたりした面もありました。私が暮らす岡山県では、経営困難になった地域のミニシアターを残すプロジェクトが始まり、990人から1000万円以上の資金を集めました。また、子どもたちの学習支援を行う「おかやま親子応援プロジェクト」では、岡山県内の親子が一致団結して知恵を出し合っています。個々の利益を超えて、地域を支え合う機運が生まれているのです。

各地には、全国を対象にした助成や政府の支援制度では埋められないようなニーズがあります。その隙間を埋めるのが、地域の財団の役割です。
 

質疑応答

川北:
今後ますます深刻な事態が予想されますが、今後の見通しについて、どう考えていますか?

石原:
新型コロナウイルスに追い討ちをかけるように大規模な水害が発生しましたが、これほど危機が続くと、NPOなどを支える寄付者の「支援づかれ」も心配です。またコロナの影響で仕事を失った方の新しい仕事づくりも必要だと感じています。

阿部:
災害が起きた年の募金活動は非常に厳しいですが、新しい寄付者は増えていると思います。企業からも、社員寄付とのマッチングなどの提案をもらいました。そういった仕組みづくりも重要です。

川北:
緊急助成はこれからも減ることはなく、ますますスピード感が求められます。意思決定プロセスの迅速化も重要ですね。

 

阿部:
全国にネットワークをもつ共同募金会には、助成先に関する情報も集まり、助成にあたっては各県の募金会と頻繁にコミュニケーションをとって決定します。今後さらに迅速な支援に努めます。

石原:
意思決定の人数や連絡手段、情報伝達方法を事前に備えておくことはとても重要です。全国コミュニティ財団協会では、災害時のプロジェクト立ち上げから助成までのプロセスを一つのパッケージとして整え、各地域のコミュニティ財団に使ってもらえるよう準備を進めています。

総括として、阿部氏は「これからの新しい社会づくりについて、まだ共通のビジョンが見えない中、地域の専門職や市民の皆さんと一緒に課題を解決していくことが重要」と語りました。また、石原氏は、「市町村単位で生活圏に密着した支援と、国や県の広域が実施する支援と、両方がうまく機能するようにしたい」と語り、“ニーズの隙間”を埋める情報共有会議の重要性を強調しました。

*本第2回のセミナーは、『佼成新聞デジタル』(佼成出版社)でも取り上げられています。
「庭野平和財団連続セミナー『新型感染症が与える影響と市民社会』第2回は助成機関の立場から報告」(佼成新聞DIGITAL)
https://shimbun.kosei-shuppan.co.jp/news/41849/