報告「新型感染症が与える影響と市民社会 連続セミナー」第3回
2020.10.07
当財団主催「新型感染症が与える影響と市民社会」の第3回「新型コロナウイルスの感染拡大への宗教者の対応のこれまでとこれから」が、8月5日、オンラインで開催されました。戸松 義晴氏((公財)全日本仏教会理事長)と、西原 美香子氏((公財)日本YWCA業務執行理事)を迎え、川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所])の進行でお話を伺いました。
戸松 義晴氏(公益財団法人全日本仏教会 理事長)のお話 http://www.jbf.ne.jp/
宗教法人は、3月下旬以降、法要や祭事の規模の縮小・中止、ウェブによる法要など自主的な対策を実施してきました。全日本仏教会としては、日常的な感染対策管理の徹底、国の方針や医療機関の取り決めに従った上での通夜・葬儀の実施などをお願いしました。また、加盟団体の取り組みをウェブサイトで紹介しています。
世界保健機関(WHO)は「宗教者は不安や悲しみのなかにいる人を支える重要な役割を果たせる」というメッセージ(「宗教指導者・信仰団体への実践的配慮・推奨」)を示しました。全日本仏教会が加盟する日本宗教連盟の意見交換の場でも、感染爆発が起こった際の宗教界の役割は、まず「遺族の心のケア」であるとされました。
今まで続けてきた炊き出しの配食活動や介護者カフェの集まりは、規模縮小やオンラインに切り替えていますが、やはり直接寄り添えないのは寂しく感じます。葬儀や法要をはじめ各種行事の簡略化が進むことで、法要文化の衰退や寺離れ、世代間の継承が難しくなり、状況はさらに悪化していくでしょう。全日本仏教会や大正大学地域構想研究所・BSR推進センターが実施したアンケート 「寺院における新型コロナウイルスによる影響と その対応に関する調査」結果報告 でも事態の深刻さが報告されています。
他方、今は既存の社会を見直し「新しい関係性」をつくるよい機会かもしれません。高齢のため遠のいていたお寺の法要に、お孫さんの協力を得て一緒にオンラインで参加した、という方がいました。また、僧侶による高所からの「説教」は、同じ目線に立つ「傾聴」に変わりつつあります。仏教の知恵と慈悲は、合理性や論理性を超え、困っている人々に寄り添うものですが、新型感染症を機に一人一人の思いや違いを認め合う価値観が、これまで以上に大事になってきています。
西原 美香子氏(公益財団法人日本YWCA 業務執行理事)のお話 http://www.ywca.or.jp/home.html
YWCAは、世界中の女性が言語や文化の壁を越えて力を合わせ、平和な世界を実現するために設立された国際NGOです。世界約120あまりの国でキリスト教を基盤に活動し、日本では24の地域YWCAと37の学校YWCAがあります。
キリスト教会は、「呼び集められる 寄り添う ふれあう」を大切にしてきました。礼拝中止の決定は苦渋の選択でしたが、いのちを守ることを最優先にしました。この間、試験的に始めたバーチャル礼拝には、これまで教会から遠ざかっていた人が参加し、スマートフォンで「初めてつながる経験ができた」という高齢者の方もいらっしゃいました。同時にオンラインにつながれない方たちには、普段以上に手紙や電話で寄り添う活動も続けています。
外出自粛の影響で、ドメスティック・バイオレンスや偏った家庭内労働負担、社会的・精神的孤立など困難な状況に追い込まれる女性が増えており、日本YWCAは、若い女性たちのための安全な居場所「セーフスペース」をオンライン上につくり、互いに助け合える場をつくっています。
また、国の支援が届く仕組みづくりのために特別定額給付金に関する要望書の提出も行いました。各地域のYWCAでは、留学生への資金支援や日本語を母国語としない子どもたちへの学習支援のほか、野宿生活者や臨時休校の影響で孤立する親子もサポートしています。
こうした活動は、これまで続けてきた取り組みの延長上にありますが、個々の現場から見えてくるのは、「排除」や「孤立」「格差社会」の現実です。これまで私たちは、まるで麻酔にかかっていたかのように、苦しんでいる人たちの存在に気付きながらも、理解しようとしないままでした。コロナ禍から元通りになろうとするのではなく、社会再生のチャンスととらえて、いのちを愛しみ、尊厳をまもるコミュニティを再生していかなければなりません。今、最も大切なのは感染者への配慮であり、今後、私たちは「ポストコロナ」の社会のあり方について語り合う場をつくり、伝えていく役割を果たしていきたいと思います。
質疑応答
川北: 世界規模の宗派として、国を超えた連携はありましたか?
西原: World YWCAが、オンラインの「セーフスペース」、新型コロナウイルス感染症が若い女性・女性に及ぼす影響について発信し、「このようなときこそ、つながりを閉ざしてはいけない」というメッセージが出されました。各国の取り組みを共有し合い、例えば韓国の「お先にどうぞ(after you)キャンペーン」は、我先にとマスク購入に走る風潮に待ったをかけ、必要な物資を最も必要とする人たちへと呼びかける啓発の役割を果たしたと聞いています。
戸松: 私たちも世界仏教徒連盟(WFB)の地域センターとして、アジアの仏教国と、それぞれの情報や経験を共有し合いました。タイ、マレーシアやインドネシアなどでは信者がマスクやフェースガードを作って医療機関に提供するなどの具体的な動きがあったそうです。
川北: 今回の歴史的な事態は、宗教界にどんなインパクトをもたらしていくと思いますか? オンラインでの関係をつくるだけならば、AI(人工知能)の方が効率的ですが、人と人とのやりとりや対話があるからこそ生まれる関係は、共同体ならではの強みです。それをどう生かしていくかも、宗教者にとって大切な課題と言えます。
戸松: これまで組織や教団ありきだった宗教は、これから“個人化”していく可能性もあると思いますが、場としての寺、歴史・文化的価値や先祖とのつながりの意味での寺はなくなるわけではありません。「放っておけない」と思う人たちが関わり、学び合えるようなコミュニティの場が求められていると思います。合理性や論理を超えた、関係性を紡いでいく共同体のあり方が、あらためて重要になっていきます。
西原: 宗教者が大切にしているのは「個」を見る視点です。数字で世の中の動きを測るのも必要ですが、コミュニティのなかで一人一人に心を配って行動していく役割が求められています。
(質疑応答では、このほか感染者への差別の問題やNGOとの連携、高齢者との関わり方、オンライン化のデメリットなど多岐にわたる質問にご回答いただきました)
総括として、お二人は「コミュニティの再生のために力を発揮したい」という共通の思いを語りました。
*本第3回のセミナー、および第4回のセミナーについては、『佼成新聞デジタル』(佼成出版社)(2020年8月20日付)でも取り上げられています。 「庭野平和財団オンラインセミナーが終了 4回にわたってコロナ禍で共に支え合う取り組み考える」 https://shimbun.kosei-shuppan.co.jp/news/42504/