報告「2021年度 新型感染症が与える影響と市民社会 連続セミナー」第1 回
2021.07.14
当財団主催「新型感染症が与える影響と市民社会(2021年度)」の第1回「今回の事態の前から困難や課題を抱えた人々の状況の推移と、その人々を支援する活動・団体の対応の推移」が、6月8日、オンラインで開催されました。赤石 千衣子氏(しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長)氏と、稲葉 剛氏(つくろい東京ファンド代表理事、立教大学特任准教授)、小河 光治氏(あすのば代表理事)を迎え、川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所])の進行でお話を伺いました。ハイライトでご報告します。
はじめに
公益財団法人庭野平和財団 理事長 庭野 浩士
第1回から第3回では、支援団体、助成団体、宗教者のこれまでのお取り組みをお教えいただくとともにこれからの役割を考え、第4回では総括としてIIHOE川北氏にお話しいただきます。各回とも、報道には表れない現場の状況を知る機会であり、また各々の立場で取り組むべきことを考えられる内容になっています。ぜひ連続でご参加いただきたいと思います。
赤石 千衣子氏(認定特定非営利活動法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ 理事長)のお話 https://www.single-mama.com/ 私たちは「シングルマザーと子どもたちが生き生きと暮らせる社会を実現する」をビジョンに活動する団体です。新型コロナがシングルマザーに与えた影響は甚大で、特に2020年3月の一斉休校では仕事に出られず、収入源に直面した世帯が多くありました。当団体では食料支援を強化。企業 や個人のご協力のもと、延べ約25,000世帯に米や肉、野菜などを送ってきました。
食料支援のアンケートやメール相談に寄せられる声から、シングルマザーが置かれた状況が伝わってきます。「子どもが『今日は雑炊じゃなくて白米を食べられるね』と喜んだ」という声があったのは、2020年3月のこと。すでに生活が厳しくなっていたことがわかります。シングルマザーの貧困率は平時でも50%と高く、そこにコロナ禍の不利が重なりました。飲食、サービス業などに従事する方が多く、仕事が減少。休業補償の制度はあっても、非正規雇用で働く人には届きませんでした。
当団体の調査では、「就労や生活に大いに影響があった」と回答するシングルマザーは、約7割に上ります。2021年2月の調査では、3〜4割が「お米を買えないことがよくあった」「時々あった」と回答。非常に厳しい困窮度合いです。米より安い小麦を薄く伸ばして食べている家庭もありました。子どもの体重減少も気がかりです。東京では10%超が「子どもの体重が減少した」と答えました。新学期を控え、入学・進学費用の捻出のために、食費を削っている様子が窺えます。
今後、就労支援に力を入れていきます。ITスキルがないと不利になりますので、企業等と協力してスクールを開設し、資格取得の支援を始めました。これまでに3名が再就職を果たしています。
稲葉 剛氏(一般社団法人つくろい東京ファンド 代表理事)のお話 http://inabatsuyoshi.net/ つくろい東京ファンドは、ハウジングファーストの考え方に基づき、都内でホームレス支援を行ってきました。貧困の報道は昨年より減りましたが、むしろ現場は深刻化しています。協力団体が行う弁当配布に並ぶ方は、過去10年で最多に。従来とは異なり、若者、女性、子ども連れが見られます。
当団体が昨年4月に開設したメール相談では、SOSを受けてスタッフが駆けつけ、当面の生活費を手渡して生活保護など公的支援につないでいます。また、独自に、都内で59室の「個室シェルター」を確保しました。利用者は10代の若者もいれば、70代の高齢者、ひとり親家庭、外国人技能実習生も。世代を超えて貧困が広がっていることがわかります。2020年夏以降は、自営業者などが経営悪化で家賃を滞納した例が増えました。さらに、ペットと暮らす方もいますが、公的な住まいへの入居にはその処分が求められるため、4部屋のペット可シェルターを開設しました。 礼金・敷金や家庭用品の購入など、家を借りる際の初期費用も課題です。私が関わるビッグイシュー基金では、助成金をもとに援助の仕組みを始めました。収入減少で低家賃の物件に引っ越す方もいらっしゃいます。今夏までに全国200世帯を支援する計画です。
その他に、生活保護申請のためのオンラインシステムの開設や、申請の壁となる「扶養照会」の変更を求める提言を行っています。扶養照会は2021年4月から、申請者の意向を尊重するよう運用が一部改められました。
住まいや仕事、社会保障サービスにアクセスできない「社会的排除」は、コロナ禍で顕在化していますが、平時からの課題です。社会的排除をいかに解決するか。その視点で事業を行っています。
小河 光治氏(公益財団法人あすのば 代表理事)のお話 https://www.usnova.org//
あすのばは、子どもの貧困をなくすことを目指し、政策提言や、支援団体への中間支援、子どもへの直接支援を行っている団体です。コロナ禍で、子どもの貧困を巡る状況は一層深刻化しています。こういうときこそ公助が必要と考え、政策提言を行ってきました。子どもを抱える困窮世帯への支援を働きかけ、ひとり親世帯への2回の給付金が実現。ふたり親世帯への初めての給付金も実現しました。後者は給付遅れの課題がありますが、申請不要のプッシュ型になった点は評価できます。
独自の取り組みも行っています。一斉休校の時期に行ったヒアリングで、高校生への支援が手薄だとわかりました。そこで、独自の給付金を創設し、第1弾として1,300人に給付。第2弾では、定員の5倍に上る応募がありました。当初予定の財源では不足しましたが、企業や個人からの寄付によって、約5,000人に給付することができました。
困窮世帯の保護者の仕事が安定するまで、かなりの時間がかかると考えています。コロナ以前から生活基盤が脆弱だった方が、以前の生活に戻るのは困難なことです。そのため現金給付は重要で、加えて雇用対策や収入補償が欠かせません。今年は子どもの貧困率の調査年に当たり、調査結果の悪化が見込まれます。今、大切なのは、3年後の次回調査を視野に入れた支援です。緊急支援だけでなく、平時の課題を解決する支援が求められています。
子ども庁をはじめ子ども施策に注目が集まる今、議論の行方を注視し、提言していく必要があります。日本は子どもたちへの公的支援が少なく、親や祖父母が資金を注ぎ込まざるを得ません。すべての子どもたちへの支援を充実させ、より困難を抱える子どもには手厚くする施策が、誰も取り残さない支援につながります。
質疑応答
川北: もともと困難を抱えた方が、生活を立て直すのは簡単ではありません。 どのような支えが必要ですか? 赤石: 就労につながるスキルの獲得が重要ですが、それ以前に、食べていくのが大変になっています。子どもの障害やご本人のメンタルヘルス、離婚前後の問題など、困難を抱える方も多いです。食料など暮らしの支援を続けつつ、少しでも先のイメージを持てるような就労支援が必要です。
川北: 個室シェルターの利用期間に傾向はありますか? 稲葉: 通常3ヶ月に設定しており、その間に生活保護を申請するなどして、アパートに移ります。東京都提供のビジネスホテルの住まいは1ヶ月の設定ですので、その間に部屋を見つけられない方が、個室シェルターを利用しています。しかし、滞在期間が延びる方もいます。主に、難民申請中など外国籍の方です。生活保護の受給資格がなく、就労もできないため、困窮から抜け出す手段がありません。
川北: 子どもの貧困に関し、自治体の取り組みを加速させるため、ふるさと納税による寄付の仕組みを使えないでしょうか。また、企業がパートナーとなる可能性はありますか?
小河: 子どもの貧困の取り組みは自治体により温度差があり、最低限のレベルまで全体を底上げしていく必要があります。ふるさと納税は、運営経費等が大きく、子どもたちに届く金額が少なくなるため期待していません。企業による取り組みは増えています。盛岡市内の子ども食堂は、「社食で子ども食堂」という取り組みをはじめ、ある日は有名ホテルの社員食堂で食事をし、同時にホテルの裏側を見学できる機会を作り、キャリア教育につながっています。
最後に総括として、赤石氏は「食料支援は来年度も続ける。就労支援も企業の協力を得ながら行い、研究者との調査も継続していきたい」。稲葉氏は「貧困は今後さらに見えにくくなる。先は見えないが、様々な団体と連携しながら、調査結果など工夫して発信していきたい」。小河氏は、「困難が続く今こそ、連携を強めていきたい。コロナであぶり出された平時の問題の解決に踏み出していく」と話しました。