報告 「2021年度 新型感染症が与える影響と市民社会 連続セミナー」第3回


『今回の事態を受けた宗教者の対応の推移』

 

当財団主催「新型感染症が与える影響と市民社会(2021年度)」の第3回「今回の事態を受けた宗教者の対応の推移」が、7月14日、オンラインで開催されました。戸松 義晴氏(全日本仏教会 理事長)、西原 美香子氏(日本YWCA 業務執行理事)、吉水 慈豊氏(日越ともいき支援会 代表理事)を迎え、川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所])の進行でお話を伺いました。ハイライトでご報告します。

 

はじめに

公益財団法人庭野平和財団 代表理事 庭野 浩士
 

 
本日はご参加ありがとうございます。新型コロナの影響で人との接点が失われている今、以前から困難や課題を抱えていた方々は、仕事や生活の基盤が更に損なわれるなど、より深刻な状況に陥っています。第1回、第2回は、支援団体と助成団体のお話を伺いました。本日は、第3回として宗教者として活動をされている方々の対応を伺います。報道では流れていないような現実のお話が沢山あるかと思います。本日もたくさん学ばせていただきたいと思います。どうぞ宜しくお願いいたします。

 

阿戸松 義晴氏(公益財団法人全日本仏教会 理事長)のお話
http://www.jbf.ne.jp/

 
全日本仏教会では昨年度、「仏教に関する実態把握調査」を行いました。「寺院・僧侶に求める役割」は、例年は「特になし」が多く、続いて「葬儀」となります。ところが今回は、1位が「不安な人に寄り添う」、2位が「コロナ禍の収束を祈る」と変化が見られました。一方でわかったのは、コロナ禍において、実際にお寺から働きかけを受けた方は少ないという点です。貧困や格差が広がるなか、仏教者の「思いを形に」して届ける必要があると考えています。
 
2021年3月のシンポジウム「仏教とSDGs〜貧困を考える〜」を企画したのは、自立生活サポートセンターもやいが主催するフードパントリーに参加したことがきっかけでした。多くの方が受けている影響を肌で感じ、「思いを形にする」第一歩として行ったのです。
 
登壇者のお一人、千田 明寛氏は、最明寺(埼玉・川越市)のご本堂で、フードパントリーを行っています。仏様の前ですので、支援する側・される側の上下関係が生まれず、皆平等の空気感になるそうです。行政や市民団体との連携によって、お困りの方に情報を届けることができます。


最明寺でのフードパントリーの様子

 
現在、東京・港区や目黒区のお寺が、フードパントリーの導入に向けて動いています。今後は得られたノウハウを公開し、各地のお寺で参考にしてもらえるようにしたいと考えています。
 


西光寺(静岡・伊豆の国市)では、ワクチン接種のウェブ予約を代行。
不安な顔で訪れた高齢者が、安心して帰られた。思いを形にした一例

 


シンポジウム「仏教とSDGs〜LGBTQの視点から考える」。
コロナ禍における差別は、マイノリティへの同調圧力と共通性がある

 
日本宗教連盟で行ったセミナー「コロナ禍における宗教活動を考える」では、東邦大学の舘田教授から「分断が差別を生み出す今、宗教界に大事な役目がある」と投げかけをいただきました。「新型コロナで亡くなったと知られたくない」と葬儀をしなかった遺族が後悔し、グリーフケアに問題を抱える例もあります。新型コロナへの罹患が悪いことと捉えられる現状を変えなければなりません。

 
 

西原 美香子氏(公益財団法人日本YWCA 業務執行理事)のお話
http://www.ywca.or.jp/home.html

 
YWCAは、人権、平和、環境が守られる社会へと変革するため、女性、特に若者のリーダーシップ養成に力を入れるキリスト教を基盤とする団体で、国際NGOです。
 
多くのキリスト教会では、感染対策を施して、礼拝が再開されています。IT機材と技術がある教会ではオンライン配信も行われていて、これまで礼拝から遠ざかっていた方が参加できた例もあれば、ITスキルがなく参加できなくなった例もあります。高齢の方や心や身体に病を抱える方が孤独に陥らないよう、教会では手紙や電話などでつながりを保っています。
 
YWCAではこの間、分かち合う活動と、セーフスペースづくりを行ってきました。札幌YWCAを拠点に地域のキリスト教会が連携した「さっぽろ若者応援プロジェクト」では、アルバイト先を失った若者を応援しようと、寄付された食料品や生理用品のパッケージを無償提供しました。授業がオンライン化されて孤独感を感じる学生は多く、手渡す際の会話も大切にしました。また、札幌YWCAではカフェでボランティアをすると昼食とコーヒーを提供する取り組みも実施。分かち合い、助け合う活動の一例です。
 


2020年春の緊急事態宣言時に実施した「Webセーフスペース」。
安心して自分の気持ちを話せる場。現在も、さまざまな形でつながる機会を作っている

 


平塚YWCAの「ワイワイスクール」。臨時休校で孤立が心配された子どもや
保護者を支援する活動。地域の方が講師となっている

 

歴史を振り返ると、お寺や神社、教会は、単なる祈りの場ではなく、集まり学びあい助けあう拠点でした。そこから派生した多くのNGO、NPO、福祉施設もあります。これらは困っている人に手を差し伸べる、セーフコミュニティづくりの拠点です。そして、地域の人に寄り添って奉仕し、必要ならば公の機関に声を上げる役割、つまり「私」と「公」をつなぐ「公共」の役割を担っています。宗教や宗派、イデオロギーを超えて連帯し、ネットワークからひとりもこぼれ落ちないようにすることが期待されていると思います。

 


お寺や神社、教会や関連する団体は、セーフコミュニティづくりの
ためのミッション・ステーションズ(使命を担った拠点)

 
 

吉水 慈豊氏(NPO法人日越ともいき支援会 代表理事)のお話
https://nv-tomoiki.or.jp/


 
私は浄土宗の僧侶で、日新窟(東京・港区)の寺務長をしています。父である前住職を手伝うようになって、若くして命を落とすベトナム人技能実習生や留学生が多いことを知りました。人として見過ごせない気持ちから、命と人権を守る活動を行っています。
 


在日ベトナム人からSOSが寄せられる。支援会では、ベトナム人
コミュニティに入り込み、早めに相談してもらえる体制を作っている

日越ともいき支援会の活動の流れ
 

外国人技能実習制度の問題は、コロナ前から深刻でした。しかし状況はコロナで悪化しており、仕事と住まいを同時に失う例が後を絶ちません。あるベトナム人の若者は、勤務先の社長から「あしたはやすみです」と一言だけのメッセージが毎日届き、不安を募らせていました。その後、管理団体の指示で東京に向かいましたが、東京の駅には誰も迎えに来ません。3ヶ月も路頭に迷い、深く傷ついてお寺にやってきたのです。再就職できる在留資格でしたが、日本人への恐怖感を拭えず、帰国しました。
 
強制帰国をさせられそうになった若者も、泣きながらお寺に来ました。来日からまもなく解雇になったので、送り出し時の手数料として支払った100万円の借金があります。支援会では外国人技能実習機構や入国管理局と調整し、現在は東京で食品加工の仕事で働いています。
言葉がわからない外国人を精神的に追い込む企業や管理団体が多く見られます。その結果として失踪すれば「失踪したほうが悪い」と言われますが、ベトナム語が堪能な当団体顧問、神戸大学大学院・斉藤准教授と一緒に聞き取りをすると、非はないことが多いです。
 
保護したあとは、日本で再出発できるよう日本語の指導を行っています。また、フットサル大会など、ベトナム人と日本人の若者の交流の機会も持っています。そのような時間を経て内定をもらい、在留資格を変更すると、支援会を卒業となります。
 


食料や日用品など企業からの支援や、医師によるインフルエンザ予防接種の支援を受けている

 
 

質疑応答

 

 
 

 
 
 
 
 
川北:
昨年は、対面だけからオンライン化へ、という流れが強く感じられましたが、今年は対面での支援、さらに言えば、もともと接点があった方との関わりに留まらずアウトリーチをする志向が強くなったように思えます。その動きはこれからも続くでしょうか?
 
 

戸松:
今年、仏教のDX化をテーマにヤフー(株)代表取締役の川邊氏と対談をしましたが、そこでも法要の申込みなど事務手続きはオンライン、法要自体は対面が望まれているという方向性が示されました。論理性や合理性を超えて、お互いの気持ちや雰囲気の「行間」を読むには、やはり対面がよいと考えています。

 


 
 
 
 
 
川北:
YWCAの安心・安全な場所づくりは、これまでのコミュニティを開いて行われています。これは勇気がいることですね。今後どのようにアウトリーチしていきますか?
 
 

西原:
従来の活動を広げただけでは、解決できない課題がたくさんあります。札幌の取り組みは胆振東部地震で作られた牧師さんのネットワークが活かされていて、平時からのつながりづくりが大切だと感じました。今、一人ひとりが非常に弱っています。人の心を耕していくこと、つながり合って生きていると感じられるプログラムに力を入れていきます。同じ地域で活動する他の宗教、宗派、支援団体ともつながって展開したいと考えています。
 
 


 
 
 
 
 
川北:
技能実習制度は制度上の問題が大きいですが、ケース分析によって代表的なリスクと予防策を整理し、被害を減らすことはできないでしょうか? 
 
 


吉水:
支援者の立場から技能実習制度の問題に取り組んでいます。今は新型コロナの影響で新たな入国が止まっているので、その間に制度や労働環境を整えられないか、メディアでの発信や、法務省への働きかけなどを行っています。
 
 

 
最後に、戸松氏は「宗教者への期待が増している。社会から求められていることに目を向け、透明性と説明責任のもとに活動することが大切だ」、西原氏は「本当のニーズを汲み取るためにも、一人ひとりの意見をきちんと聞くボトムアップ型のリーダーシップを育てたい」、吉水氏は「家と職を失った若者の支援を通じ、命と人権を守る活動を続けていきたい」と話しました。