報告「2021年度 新型感染症が与える影響と市民社会 連続セミナー」第2回

『今回の事態を受けた助成機関の対応の推移』

 

当財団主催「新型感染症が与える影響と市民社会(2021年度)」の第2回「今回の事態を受けた助成機関の対応の推移」が、7月1日、オンラインで開催されました。阿部 陽一郎氏(中央共同募金会 理事・事務局長)、大川 昌晴氏(日本民間公益活動連携機構 総務部長)、山田 健一郎氏(全国コミュニティ財団協会 代表理事)を迎え、川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所])の進行でお話を伺いました。ハイライトでご報告します。

 

はじめに

公益財団法人庭野平和財団 専務理事 高谷 忠嗣
 

 
本日は阿部陽一様、大川昌晴様、山田健一郎様の3名の方々にご登壇いただきます。お忙しい中お引き受けいただきお礼申し上げます。また、昨年度に引き続き企画運営とファシリテーターとして川北様とIIHOE様、近藤様とエコネットワーク様にお力添えを頂いており感謝申し上げます。ご参加の皆様にもご多用の中ご参加下さり心からお礼申し上げます。

 

阿部 陽一郎氏(社会福祉法人中央共同募金会 常務理事・事務局長)のお話
https://www.akaihane.or.jp/

 
中央共同募金会は、全国の都道府県共同募金会とともに「赤い羽根共同募金運動」を推進する団体です。赤い羽根共同募金には1947年の開始以来、2021年度までに累計約1兆188億円が集まっており、全国すべての市区町村・都道府県にあるネットワークを通じて、地域の福祉活動のために使われています。

 


赤い羽根共同募金の全体像

 

コロナ禍においては、赤い羽根共同募金とは別に、社会課題別の募金を設けています。その始まりは、臨時休校措置が決まった直後でした。子どもの孤立を防ぐ活動を支援するため、募金活動を開始。2020年5月からは、各都道府県共募と連携して、子どもと家族、居場所を失った方、フードバンク、草の根活動の4つのテーマで寄付を募り、活動団体に助成しました。
 


2020年3月〜2021年3月までのコロナ禍での緊急支援募金と助成

 
都道府県共募とは密接に連携しています。都道府県共募の助成先は主に、地域に根ざして地道な活動を行う団体です。一方、全国ネットワークやモデル的な事業を行う団体には、中央共募から助成しています。場合によっては、都道府県共募で立ち上げを支援した団体が、次のステップに移るときに、中央共募から支援する例もあります。
 
今回いただいた寄付は、各地の団体で使われています。「臨時休業中の子どもと家族を支えよう 緊急支援活動助成(2020年3月〜4月実施)」で助成した555件の活動では、約5.2万人の子どもと家族を支援しました。「フードバンク活動等応援助成」では約20万人を、「居場所を失った人への緊急支援活動応援助成」では延べ11万人を超える方々を支援している計算になります。令和3年度は「いのちをつなぐ支援活動を支える」をテーマに、引き続き募金活動を展開しています。
 


令和3年度の全国キャンペーン

 
 

大川 昌晴氏(一般財団法人日本民間公益活動連携機構 総務部長)のお話
https://www.janpia.or.jp/

 
日本民間公益活動連携機構は、休眠預金の活用事業を行っている団体です。預金保険機構からお預かりした休眠預金を原資に、中間支援団体(資金分配団体)に助成。中間支援団体が現場で活動する団体(実行団体)に助成をしていきます。法律や、所管官庁である内閣府による監督の下で運用されている制度です。
 
2020年4月、新型コロナの流行を踏まえ、制度の枠組みの中で柔軟な助成を行う方針を打ち出しました。並行して、過年度に採択された資金分配団体のコロナ禍での事業実施への影響調査ヒアリングを開始。資金分配団体からのご提案書や、意見交換会、議員連盟からの要請等も踏まえ、内閣府との調整、休眠預金等審議会での審議など必要な手続きを経て、5月25 日には「新型コロナ対応緊急助成事業」公募要領を公開することができました。
 


2019年度通常枠、2020年度通常枠およびコロナ支援枠の助成状況

 

この事業では、新たな支援ニーズへの対応を想定し、総額50億円を確保しました。緊急支援であるため柔軟な対応、たとえば、状況の変化に応じて随時の募集、実行団体の管理的経費割合の引き上げ、資金分配団体および実行団体の自己資金確保の要件緩和などを盛り込んでいます。募集と選考の結果、累計で36団体が資金分配団体として採択され、それぞれが実行団体を公募し、助成を行っています。
 


実行団体の活動対象地域

 
今回、過年度と比べて資金分配団体が増えたことで、実行団体が活動対象とするエリアが広がりました。活動内容は子ども分野での支援活動が相対的に多い状況でその他に就労支援、オンライン化の支援、居場所づくりなどコロナ禍で顕在化した支援のニーズに対応した事業が多くなっています。
 


優先的に解決すべき社会の諸課題(休眠預金等活用制度の対象となる3つの分野)に対応する事業数の内訳

 

仕組みを作る上で心がけたのは、現場で活動する皆さんの声を聞くことでした。1年間の予定であったコロナ枠が終了し、課題も見えてきています。しっかりと検証して、休眠預金事業全体に生かしていきます。

 

山田 健一郎氏(一般社団法人全国コミュニティ財団協会 代表理事)のお話
https://www.cf-japan.org/


 
当団体は、全国のコミュニティ財団が参加する、地域性と市民性を大切にしたネットワーク組織です。私自身は、会員団体の一つ「佐賀未来創造基金」で活動しつつ、協会の代表を務めています。
 
新型コロナの流行で協会は「47コロナ基金」を設けました。寄付者は、都道府県を選んで寄付。各地域のコミュニティ財団等を通じて、草の根で活動する団体に助成が行われます。ウェブサイトには各財団の想いが書かれ、地域固有の課題を把握する担い手が集合していることがわかります。2021年3月末までの寄付総額は2億1千万円。2021年夏までに助成を行っていく予定です。
 


47コロナ基金の全体像

 
佐賀の場合、47コロナ基金を通じた寄付は、パターンA(図参照)の連携で、佐賀未来創造基金が独自に創設した新型コロナウイルス感染症対策基金である「佐賀支え愛基金」で使われます。佐賀未来創造基金のコロナ対応は、一斉休校時、地域の団体へのヒアリングで状況を把握し、手元の資金で助成したことから始まりました。災害支援と同じスピード感で、まずは先に傷口を塞ぐ「絆創膏」として助成事業を実施して、その後、寄付を募ったのです。並行して、県内CSO(市民社会組織)アンケートや助成先等のヒアリングで見えた課題から、県・県議会、そして佐賀市に提案書を提出。県の施策としてふるさと納税を活用したマッチングギフト方式での「佐賀型CSO持続支援金」が決まり、100団体以上に助成しました。その後も、各分野の課題やニーズに対して寄付を集めて助成を実施し、それでも対応できない分野や支援活動に休眠預金事業なども活用しながら地域支援を実施、そしてまた再調査するサイクルを繰り返しています。
 


佐賀未来創造基金の新型コロナ対応の流れ

 


ニーズがあっても資金が足りない分野に関して、休眠預金等活用制度を利用

 
コミュニティ財団は、先々に起こりうる課題を把握し、助成金以前の解決策をつくることを大切にしています。そのようなコミュニティ財団の仲間で作った47コロナ基金は、それぞれが平時から地域の担い手とつながっているので、構築がスピーディーでした。地域を支える市民を、全国の皆さんで支えていただくこの仕組みを、災害時の寄付募集プラットフォームとしても活用する予定です。
 

質疑応答

 

 
 
 
 
 
川北:
中央共同募金会の助成に応募する団体に変化はありましたか?
 
 

阿部:
今回、中央共募で公募した子ども食堂やフードバンクは、これまで主に都道府県の共同募金会、市町村の共同募金委員会が助成をしてきました。また、外国にルーツのある方々を支援する団体は、中央共募としてあまりつながりがありませんでしたが、今回、三菱財団と連携して助成を始めました。助成期間がまもなく終わるもののまだニーズは大きいと考え、ヒアリングを進めています。加えて気になるのが、民間の相談支援ネットワークです。来年以降の公的支援の見込みがないため、支援の必要を想定しています。

 


 
 
 
 
 
川北:
休眠預金等活用制度のコロナ枠には、これまでに接点がない団体からも応募がありました。採択団体のコロナ枠から通常枠への移行も考えうるでしょうか? また、コロナ枠実施の経験は制度運用を考える材料になりますか?
 
 

大川:
新型コロナ対応で求められる支援は変化していきます。緊急支援として始めた団体の中には、ニーズの変化に対応する団体も、他団体にバトンタッチしていく団体もあると思われます。今回、さまざまな団体に休眠預金を活用いただき、資金分配団体のあり方や実行団体の支援方法など勉強になっていますので、今後の制度に活かしていきます。
 
 


 
 
 
 
 
川北:
佐賀未来創造財団は、助成への応募を待つのではなく、地域課題を踏まえて助成先と一緒に案件組成をしています。また、地域内の関係性の豊かさ作りは、コミュニティ財団にとって最大の可能性です。それぞれどのような工夫をしていますか?
 
 


山田:
助成財団の中でも、最も地域に近いのがコミュニティ財団です。しかし、自分たちだけでの社会課題解決は不可能で、現場の声を聞くことを何より大切にしています。ニーズ、担い手、そこを取り巻く環境のうち、何が足りないかを把握し、必要なものを作り上げています。また、行政や企業、金融機関とのネットワークを作り、人と人をつなげています。
 
 
 

最後に、来年にかけての見通しとして、阿部氏は「パンデミックで顕在化し継続している課題、制度の狭間にある課題について、テーマ別の募金を行っていきたい」、大川氏は「コロナ枠の事業が終わっても、課題はまだ続いていく。通常枠の公募にうまく接続できないかと考えている」、山田氏は「地域にいるからこそ見える痛みやつぶやきから、解決すべき課題を発信していきたい。地域での支援の具現化に尽くしていきたい」と話しました。