公開シンポジウム 『"格差"を越えて』をテーマに
2017.03.09
『“格差”を越えて』をテーマに公開シンポジウムが3月4日、東京・杉並区の佼成図書館視聴覚ホールで開催された。宗教関係者ら30人が参加した。
同シンポジウムは、専門家から日本の経済的格差の現状と課題を学び、解決の方途を考えることが目的。当日は、東京大学社会科学研究所の大沢真理教授が基調講演に立った。 この中で大沢教授は、厚生労働省の「国民生活基礎調査」(2013年)を基に、日本の相対的貧困率の推移に触れ、02年から07年までは「景気拡張期」とされるが、この間も相対的貧困率は上昇したと説明。その後の12年には人口の6人に1人にあたる16.1%を記録し、特に「ひとり親」世帯では54.6%に達したと話した。また、世代別の比較では、高齢者の貧困率が下がる一方、子供や若者の貧困率が上がり、特に若者とひとり親世帯の貧困が深刻と語った。貧困の原因として、非正規雇用者の増加や労働者の平均報酬の低下などを指摘した。
また、政府は税と社会保障制度による所得の再分配を行っているが、日本のシステムでは貧困削減の効果が低く、低所得層の共稼ぎ、ひとり親、単身の世帯の中には、税金と社会保険料を払うことによって貧困に陥る世帯があると解説。所得の再分配がかえって貧困率を高めるという「マイナスの効果」は、経済協力開発機構(OECD)加盟国で、日本にのみ見られる「異常な現象」と述べた。その上で、従来の政策で高所得者や資産家、法人への減税を繰り返し、高所得者ほど税負担の割合が低い仕組みになっている問題点を挙げ、「歳出をいくら削っても、歳入にテコ入れをしなければ財政危機は解決しない」と訴えた。
さらに、研究データを基に、貧困率と他人への信頼度には負の相関関係があるとし、6人に1人が貧困状態にある日本では、諸外国に比べ、他人への信頼度が低いと強調。信頼度が高まるほど、地域での社会活動が活発になり、災害発生後の復興速度も早いなど、プラスの影響があることを示し、「(経済的に)恵まれた人にとっても、貧困の克服は大きな課題」と述べた。
続いて、市民団体「AEQUITAS(エキタス)」の藤川里恵氏、一般社団法人「つくろい東京ファンド」の稲葉剛代表理事が格差是正に向けた取り組みを紹介。最低賃金の引き上げに向け活動する藤川氏は、「誰もが当たり前に生きられる社会に」と、貧困者の住宅問題の解決を目指す稲葉氏は、「自由を保障するためにベーシックニーズ(生活する上で最低限必要な費用)の低コスト化を」と訴えた。
この後、3人によるパネルディスカッションが行われ、就労における男女格差や人口減少が抱える問題について意見が交わされた。 ▼庭野平和財団公開シンポジウム『“格差”を越えて』(1)
▼庭野平和財団公開シンポジウム『“格差”を越えて』(2)
相対的貧困率
その算出方法を記して説明する。 (1)まず世帯収入から、すべての国民一人ひとりの手取り所得を計算する (2)その金額を並べ、真ん中の額(中央値)を出す この中央値の半分の額に満たない人の割合を相対的貧困率という。厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、2012年度の中央値は年間収入244万円となり、その半分の144万円が貧困ラインになる。現在、国民の6人に1人がこれ以下の収入で暮らしていることになる。