報告「新型感染症が与える影響と市民社会 連続セミナー」第4回

新型コロナウイルスの感染拡大が、困難・課題を抱えた人々と、その支援者に与えた影響と今後②

当財団主催の連続セミナー「新型感染症が与える影響と市民社会」の第4回「新型コロナウイルスの感染拡大が、困難・課題を抱えた人々と、その支援者に与えた影響と今後②」が、8月7日、オンラインで開催されました。第1回〜第3回の進行役を務めた川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表者)が、今後取り組むべき各セクターの対応について解説しました。
ハイライトでご報告します。
 

川北 秀人氏 (IIHOE [人と組織と地球のための国際研究所] 代表者)

新たな問題の原因ではなく、未来の「予現」——人口構成の推移を踏まえた対策を

今回のセミナーでは、これまで3回にわたって、市民活動団体、助成機関、宗教者それぞれが、どのように新型コロナウイルスの感染拡大と向き合い、厳しい状況に追い込まれた人々を支えてきたか、そのこれまでの経過と、これからへの臨み方について伺ってきました。
第1回「新型コロナウイルスの感染拡大が、困難・課題を抱えた人々と、その支援者に与えた影響と今後」
第2回「新型コロナウイルスの感染拡大への助成機関の対応のこれまでとこれから」
第3回「新型コロナウイルスの感染拡大への宗教者の対応のこれまでとこれから」

ご登壇者のお話からわかるように、以前から課題や困難を抱えていた人々の置かれる状況は、さらに厳しくなっています。休業要請や休校は、「家族」や「家」に負担を強いるだけのものであり、働き方や資産の格差は、さらに拡大しました。今回の事態について私は、東京をはじめとする日本全国にとって、「予現」、つまり未来が早くきたのだと捉えています。新型コロナウイルスは、新たな課題の「原因」ではなく、焦点を浮かび上がらせる“レンズ”であり、状況悪化を早める“加速器”だったと言えるからです。


GDP,賃金等、貯蓄の推移

たとえば、第1回で指摘された「ハウジング・プア」の背景には、労働分配率の低下があります。リーマンショック以降、毎年ほぼ変わらないGDP下で企業が史上最高益を続けられたのは、労働分配率を下げ、賃金を抑え続けたからにほかなりません。その影響を受け2013年には国民純貯蓄はマイナスになり、その後もほぼゼロの状況が続いています。このように、働く人々の置かれる状況が、戦後最も厳しい状況にあるときに、休業や休校を強いられ、ネットカフェからも退去を求められるのは、まさに課題の焦点を絞り、加速したものです。


浄土宗香念寺 介護者カフェの活動

また今回、東京・大阪をはじめとした都心部を中心に「医療崩壊」の危機まで指摘されました。その背景として、人はどこで亡くなるかという点についてみると、1970年代までは自宅で亡くなる方が大半だったのが、80年代からは、病院で亡くなる方の数が半数を超え続けています。しかし、2015年以降はその数は横ばいになりました。病床数がピークに達したためです。年間死亡者数は今後も増え続けます。それは、自宅など、病院・施設以外で亡くなる方が増え続けることを意味します。この問題がより深刻なのは都市部であり、もともと一人ぐらしの高齢者の数も率も多く、「孤立死」の増加が懸念されます。


死亡場所

NPOは「一歩先の視野・半歩先のプログラムを」

人口全体の構成をみると、生産年齢人口(15歳から64歳)の減少が続く一方で、高齢者は増え続け、なかでも、後期高齢者や、要介護度の高い85歳以上の人口が増え続けます。このような人口構成の推移を踏まえた、地域づくりが求められています。新型コロナウイルスが「予現」した未来に備えるために、市民活動にも、長期的な視野や取り組みの進化が求められています。
 

せんだい・みやぎNPOセンターを創設した、故・加藤哲夫さんは、東日本大震災の直後に、「緊急時には傷口に絆創膏を貼るような仕事が必要」とし、一方で、NPOの本来の役割は、「社会が作り出した矛盾の後始末だけでなく、新しい社会構造と参加の仕組みを世の中に位置付けていくこと」という言葉を私たちに遺しました。つまり市民活動は、対処・対症療法から原因解消へ、反射的対応から仕組みづくりへと進化することで、本来の在り方を取り戻さねばならないのです。

たとえば大規模な災害の後、「水がほしい」「毛布がほしい」という被災者の要望を聞いてから、それを用意しては、深刻なニーズにタイムリーに応えることはできません。大規模災害の被災者は、同地の行政職員も含めて、ほぼ被災「初体験」者。だからこそ、事業系のNPOは、当事者を知る支援のプロフェッショナルとして、一歩先を見据えて、半歩先のサービスや、予防を含めた取り組みを提供することで、さらなる困難を避ける支援をしなければならないのです。


NPOは「1歩先の視野・半歩先のプログラム」中間支援は「2歩先の視野・一歩先のプログラム」

今回の新型コロナウイルスに際して、行政から施設の運営を受託している団体が、施設を「利用不可」と決めて何もしないのか、情報提供などそれ以外の支援方法を模索するか、対応が分かれました。行政への依存度が高く安定した受託収入がある団体は、その安定度を、深刻な状況下にある人々の支援に生かす必要があります。先述の通り、事業系NPOは一歩先の視野で、半歩先のプログラムを作らなければなりません。そんな事業系NPOをサポートする中間支援機関は、二歩先の視野を持ち、一歩先の支援プログラムを提供する必要があるのです。

人々のくらしを守る地域自治組織の取り組み

今回の事態では、地域の自治会・町内会などの地域自治組織も活躍しています。小規模ながらも多様な機能をもった住民自治を推進する「小規模多機能自治推進ネットワーク会議」の会員約300の自治体・団体にアンケートをとったところ、手作りマスクを寄付する際にコンテストを開いたり、消毒液を自治会単位でまとめて購入したり、ボランティアとして再開された学校の消毒をしたりなど、地域全体で人々のくらしを守る取り組みが実施されていました。


東淀川区新庄地域活動協議会の「街の手づくりマスク展」

小規模多機能自治とCOVID19対策の「これまで」と「これから」

これまで使途の制約などが厳しく求められてきた、地域活動に対する行政からの補助金も、今回ばかりは非接触型電子温度計や消毒液など物資の購入を可とする、次年度への繰り越しを認めるなど、柔軟な対応が広がりつつあります。今後は、水害などの災害時にも感染症対策を織り込んだ安否確認訓練や避難所運営研修など、地域の自主的な取り組みを促せる環境整備のための補助・助成が求められます。

今必要なのは、「調査・研究」への支援

社会の不安定性が高まる中、NPOが行う活動や企業が営む事業、そして、行政の施策にも、進化が求められます。活動・事業・施策には、「調査・研究」、「開発・実装」、「普及・展開」という3つの段階があります。不安定性が高まる時期だからこそ、従来通りの活動・事業・施策を続けるだけではなく、「調査・研究」段階にあるものを積極的に応援する必要性が高まっています。


あなたの活動・事業のポジションは?

現在、新型感染症の影響で困窮する人々やその支援活動を対象とした、基金が数多く創設されていますが、上記の3つの段階のうち「普及・展開」段階への助成が最も多く、“ソーシャルインパクト(社会的な影響)”ばかりに注目が集まってしまっています。しかし、先述の通り、百年に一度という深刻な事態に的確に取り組み、挑み続けるためには、まず状況や構造を把握し、協議に基づいて課題解決の優先順位を絞り込む必要があり、そのための調査や試行的な取り組みへの支援が不可欠です。

また、助成機関や行政には、資金を提供するだけでなく、現場の担い手の負担を下げて効率を上げるための技術的な支援や事務の簡素化、そして宗教者には、くらしの変化を織り込んで「育・働・老・死」を支える協働の姿勢が求められています。
(以上)

質疑応答

質疑応答では、「孤立を防ぐシステムとは?」「オンラインとリアルをうまく使い分けるには?」「みんなが元気になるためには?」など多岐にわたる質問や感想が寄せられ、それらに川北氏が応答して下さいました。

(以上)

おわりに

公益財団法人庭野平和財団 専務理事 高谷忠嗣

4回にわたるセミナーでは、行政や自治会、企業、NPOの職員など延べ350人以上が参加し、新型コロナウイルスという脅威と、それが加速した課題に向き合い、様々な課題の解決に向けて尽力されている皆さまと貴重な時間を共有することができました。
コロナ禍の中で人々と社会の現場で何が起きているのか、それに対してどのような考えから、どのような取り組みが実際になされているのかを、あらためて多くの視聴者の皆様とともに学ぶことができたことを、大変有難く感謝申し上げる次第です。
ご登壇の皆様に心から感謝を申し上げます。
また、今回の4回の連続セミナーをすばらしいファシリテートでセミナーを進めて下さり、4回目では全体を通して貴重な提言を下さったIIHOE(人と組織と地球のための国際研究所)の川北代表、準備とプロモーションを担って下さったIIHOE事務局の皆様、記録の編集を下さった株式会社エコネットワーク様にも、あらためて感謝を申し上げます。

当財団では、これからも皆さまに役立つ助成や情報発信に尽力して参ります。


(左:高谷専務理事)

*本第4回のセミナーについては、『佼成新聞デジタル』(佼成出版社)(2020年8月20日付)でも取り上げられています。
「庭野平和財団オンラインセミナーが終了 4回にわたってコロナ禍で共に支え合う取り組み考える」

https://shimbun.kosei-shuppan.co.jp/news/42504/