報告 普及啓発事業 シンポジウム「2030年の宗教:コロナ禍の中で」
2022.05.24
2021年度の社会調査事業に関連させた研究会を4回実施し、そのまとめとして「2030年の宗教:コロナ禍の中で」と題したシンポジウムを開催しました。その記録を報告したものです。内容は、座長である石井研士氏(國學院大學教授)が、4回の研究会について報告、さらに研究会メンバーの研究および近著の紹介をした。発表者8名は研究会での議論や調査結果を踏まえて、各自の視点からの発表。議論におよぶ時間が足らず、討論の部分の報告はありません。発表者は、石井先生はじめ、板井正斉氏(皇學館大学教授)、藤本頼生氏(國學院大學教授)、相澤秀生氏(跡見学園女子大学兼任講師)、大谷栄一氏(佛教大学教授)、川又俊則氏(鈴鹿大学教授)、藤丸智雄氏(浄土真宗本願寺派総合研究所副所長)、寺田喜朗氏(大正大学教授)で、神道、仏教、キリスト教、新宗教の現状と2030年に向けた展望が語られました。
当財団では、宗教団体が行なう多様な社会貢献活動に関する基礎資料を提供するため、「宗教団体の社会貢献活動に関する世論調査」を平成20年、24年、28年に実施しました。その後、調査結果を踏まえて、勉強会や現場からの報告を交えたシンポジウムを開催しています。本年度は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって表面化した、宗教団体の公益性やデジタル化のひろまり、儀礼文化のゆくえなどについて、4回の研究会を重ねてきました。本日は、この研究会の成果発表として、「2030年の宗教:コロナ禍の中」をテーマにシンポジウム開催します。
戦後70年以上が経ち、これまで戦後の研究成果のなかで、日本人の宗教、また宗教団体がどうなっているかという研究について十分に振り返り、総括ができるのではないのか。なおかつ今般、社会の変わっていくスピードが非常に速く、将来が見通せない。コロナ、東日本大震災など大きな環境リスクの問題が切実になってきています。過疎化、限界集落化の問題では、先日、少子高齢化で生まれた子どもの数が84万人で、過去最低と発表されました。来年度は80万人を切るのではないかと言われています。これは、婚姻件数が50数万件ということから試算される数字です。5年から10年、もう少し長いスパーンでは、平成になってからの変化が非常に速く、強いと思います。このようななかで、日本の宗教団体がどうなっていくかという問題はたいへん関心があります。理論上の問題として宗教の未来はどうだろうか。そこで、文献資料だけでなく、現状の宗教団体の在り方や宗教者の生の資料を持っている先生方にきょうはお集まりいただきました。2021年度に開催した4回の研究会のコアメンバーとテーマ、ならびに各報告者の紹介をいたします。第1回7月8日の発表者は、コアメンバーに入っていませんが、黒﨑浩行氏です。社会貢献活動にたいへん業績を残しています。これまでの研究成果のまとめとして、「デジタル化と宗教」に関して何が問われてきたのか、2つの神社の事例とむすびを発表していただきました。第2回9月16日は、私が「コロナ禍と宗教」ということで発表しました。キャッシュレス決裁、オンライン法要、オンライン参拝が進行しているのかどうか。どちらかというと宗教団体の影響力が弱まっているなかで、起死回生といわないまでも、キャッシュレス決裁やオンラインの法要、参拝は宗教団体にとって新しい布教なり、情報ツールになるのかどうかという内容です。第3回目10月21日は大谷栄一氏の「現代仏教研究から見た仏教寺院の課題」の発表です。資料に『がんばれ仏教』と『寺院消滅』が並んでいるのを見ると、関心ある方は発表の内容がおわかりだろうと思います。仏教界の過疎対策について、詳細なレジュメを作っていただきました。続いて相澤秀生氏の「曹洞宗寺院における現状と将来」の発表です。『宗教調査報告書』というものがあるのはご存じだろうと思います。伝統仏教教団では短くて3年、長くても10年ぐらいに一回大規模な教団は宗勢調査をし、現状を把握しています。曹洞宗も長い間、研究がされてきており、その報告書を取りまとめた一人である相澤さんの報告を聞きました。第4回目が12月9日で最終回です。これもたいへん濃い内容を詰め込みました。最初に、川又俊則氏に「キリスト教界の過去の問題と現状について」、それから将来はどうなるか。コロナ禍とキリスト教、現在進行形の課題、今後の展望ということで発表していただきました。続いて、寺田喜朗氏には「日本宗教史から見た新宗教の将来」を報告していただきました。2000年の少し前から教団離れというのが指摘されていますが、日本の新宗教が現状から見て、どういう変化をたどってきているのか。少子高齢化、過疎化のなかでこれからどうなるだろうかという内容の発表をお願いしました。きょうのシンポジウムでは、各研究会でご発表いただいた内容と発表者が書かれている本を念頭に置きながら、私のほうであらかじめ質問を作成して、先生方へ送りました。その回答のような形で発表いただきます。
板井氏にお願いした内容は、三重県には伊勢神宮、椿大神社、また多度大社など多くの参拝者を有する神社をはじめ、815の神社があります。いっぽうで、三重県の人口は減少し、伊勢市でも2030年には、人口は20%減の10万人余が推測されています。ご存じのように三重県は伊勢神宮がありますので、地元の人口が減っていく2030年の三重県の神社の延長線上で、全国の神社はどうなっていると推測しますかという難しいことを聞きました。板井さんの成果はたくさんありますが、『ささえあいの神道文化』『ケアとしての宗教』を載せました。『ささえあいの神道文化』も『ケアとしての宗教』も関心のある方はお目通しいただければと思います。
二番目は、藤本氏にお願いしました。藤本氏の今回の報告に関わる著書と最近刊行された『東京大神宮ものがたり』を掲げておきました。藤本氏に対する質問は、神社について近年、社会貢献活動に従事する神社や夏詣など新しい取組を始める神社が報道されます。こうした活動は全国の神社の主流になるのでしょうか、それとも一部にとどまるでしょうか。全国には神社本庁傘下の神社が約7万9千あります。2030年に全国の神社はどうなっていると推計しますかという内容です。
伝統宗教の神道から2人の話を終えましたので、これから仏教に入ります。三番目は、相澤秀生氏にお願いしました。ここに、今回の発表にも関わる2冊の本を出しました。『曹洞宗宗勢総合調査報告書』と『岐路に立つ仏教寺院』です。質問は、曹洞宗ではきわめて長期にわたって「宗勢調査」が実施されてきました。実はこの前からもいくつかありますが、大規模調査は1965年から行なわれています。すでに1936年(『曹洞宗宗勢要覧』)、1955年(『曹洞宗の宗勢』)と、実に80年以上にわたって、本格調査からも50年以上が経過しているということです。この長期にわたる調査において見出された顕著な傾向の説明をお願いしたいということと、こうした現状に立ち、今後どうなるかという推測をお願いしました。
次は、大谷栄一氏にお願いしたいと思います。一番最近の本は『戦後日本の宗教者平和運動』です。是非これは読んでいただければと思います。私からの質問は、日本の現代仏教の動向、特に過疎化との関わりに関して端的にまとめてください。その上で2030年に仏教界、仏教寺院と日本人の関係はどうなっているか推測してくださいという内容です。大谷氏はご出身が仏教関係ではないと思います。私もそうですが、研究者になって外側の目という形でご覧になっているわけで、先に説明いただいた相澤さんとの分析の違いなどや仏教研究上に今後どうなりますかという質問もお願いしました。
次は川又氏です。多方面にわたって研究業績をお持ちの方です。例えば、『ライフヒストリー研究の基礎』。キリスト教の教会について広く回っておられ、多教派の実態なども十分ご存じだと思います。もう一つは『人口減少社会と寺院』で人口減少と社会の問題を取り上げています。これ以外にも、高齢化の問題を研究しています。高齢化と信仰や宗教団体の問題を研究する研究者も少なく、重要な問題でもあるにも関わらずあまり論文もないという状況です。一部で大変有名な雑誌『月刊住職』にも連載をし、相澤氏のところでも紹介した曹洞宗の事例をもとに、データを分析されている本『岐路に立つ仏教寺院』にも執筆しています。川又氏には、曹洞宗、仏教に関して言及いただいてもいいのですが、キリスト教を中心に、日本のキリスト教界が現在抱えている課題を、深刻な順に三点説明を依頼しました。キリスト教の問題は、研究者にも一般の方にもなかなか共有されていないと思いましたので、このようなお願いをしました。この課題は、2030年までにどこまで解決、もしくは深刻化すると推測していますか。併せて三重県のことをよくご存じなので、三重県の宗教界についても言及してくださいという内容です。
次は、藤丸氏に発表いただきます。藤丸さんのレジュメのなかに、本人の説明も出てきますが、浄土真宗本願寺派総合研究所副所長です。副所長であり、実務も扱い、さらに具体的な研究内容にも精通している方です。浄土真宗本願寺派の住職で、東京大学インド哲学研究所で学ばれた文献の研究者です。現在は大学で教えています。藤丸氏には、伝統宗教の未来に関しては、かなり厳しい予測がなされています。また浄土真宗本願寺派の宗勢調査でも、過疎地の寺院や後継者に関して厳しい結果が示されていると思います。他方では、築地本願寺に代表される新しい試みも実施されて話題になっています。築地本願寺の事例とはニュースで報道もされ、昨日もテレビで放送されていました。MIKKE!をご存じでしょうか。三井不動産が展開する新しい形のもので、移動式の車で物販サービスをするものです。築地本願寺の境内のなかに車を置いて営業しています。そういうものを受け入れるなど築地本願寺は新しい、面白いことをされています。これらを含めて2030年に、浄土真宗本願寺派はどうなっていますか。さらに仏教界はどうなっているかという質問を全体としてお願いしました。藤丸氏が関わっている本はいくつもありますが、代表的な『ボランティア僧侶』『本願寺白熱教室』の2冊をここに載せておきました。
続いて寺田氏の順番になります。今回に関わるような本を3冊載せておきました。興味深い本ですので、是非ご覧になっていただきたいと思います。寺田氏には新宗教全般をお願いしています。2年ほど前にも、新宗教に関する研究会を数名の研究者で開催しました。それらを前提としてまとめていただきたいと思います。新宗教は、戦後、特に高度経済成長期に伸長しました。しかし、20世紀の終わり頃になり、代表的な新宗教教団は歩みを止め、教団離れが指摘されるようになります。まず、こうした指摘は正しいのかどうか。もし新宗教の教勢が高度経済成長期と異なるとすれば、それは、どのような原因によるものなのか。端的にご説明ください。さらに2030年には多様な新宗教教団は、どうなっていると推測されますか。新宗教全体がまとまって同じ方向に行くということは必ずしも予想されませんので、いくつかバリエーションがあるかもしれません。これらを寺田氏に質問として投げかけました。
私のテーマはデジタル化です。しばらく前はニューメディアとかマルチメディアと言われていましたが、現在では、DX(Digital Transformation)という言葉で表現されるようになっています。コロナ禍でだいぶ促進されました。先ほども自分たちの授業もオンライン化が進んだという話がありました。数年前まではまったくといっていいほど使われていなかったオンラインでの授業を、我々はいま大学で普通に行っています。利用は強いられたものでしたが、今となっては使いやすいという教員、学生さんが少なくありません。その功罪というのもよくよく調査したほうがいいと思っていますが、まだそこまではいかないままで走っている感じです。私の代表的な、関わる本ということで3冊ばかり載せました。私の関心がおおよそ理解していただけると思います。
きょうは、石井先生、そして先生方、たいへんありがとうございました。2時間半ではまとめることができないほどの中身の濃い報告をご提供いただいたと思っております。これまで4回のクローズドの研究会を開かれ、そのなかではかなり込み入った話も先生方からいただいたと報告を受けております。きょうは先生方が胸襟を開いて話し合われた成果を、本来ならお一人が1時間、2時間の内容を10分間ずつご発表いただくということで、たいへん無理なことをお願いしてのシンポジウムでございました。私も立正佼成会の信者でありますが、宗教界が、これからしっかりと意識を持って生きていかないといけない。いままで通りの教団では宗教界が潰れてしまうという危機感をあらためて持たせていただいた、きょうのシンポジウムでした。もっと先生方のパネルディスカッションや、参加者からの質疑にお応えいただく時間がとれれば、さらにいろいろな観点から理解ができたのではと思うと、もったいなかったと思います。財団では、今回のシンポジウムの内容をまとめて、Web上に記録を載せる方向で準備を進めたいと考えています。どうか、また先生方にご協力いただきながら、財団としても、世の中に、先生方のこの研究成果を広く知っていただくような形に進めていきたいと思っております。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。きょうは、石井先生、そして先生方、誠にありがとうございました。